研究課題/領域番号 |
24655056
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
藤浪 眞紀 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50311436)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 脂質膜 / 界面張力 / レーザー分光 / 膜ゆらぎ / レーザー誘起界面変形分光 |
研究概要 |
人工脂質2分子膜である黒膜のゆらぎとそれに伴う分子構造変化を考察するにあたっては、微小な界面張力の測定法と構造変化を追跡するための高感度振動分光法が必要となる。このため、本研究ではレーザー誘起界面変形分光法を利用した界面張力測定を行うと共に、表面増強ラマン散乱を利用した脂質2分子膜のラマンスペクトル検出を行った。界面張力測定法として、本年度はレーザー誘起界面変形分光法の測定に必要な光学系の構築を行い、光圧により周期的に誘起された界面変形に伴うプローブ光強度変調の周波数依存性が異なること、黒膜形成に伴う界面形成とその微小な界面張力に応じて界面変形由来の信号を得ることができることの確認を行った。 また、脂質2分子膜の分子構造変化を追跡するための振動スペクトル測定には、表面増強ラマン分光法、および先端増強ラマン分光法による脂質2分子膜測定を行い、脂質由来の振動スペクトル、および膜ゆらぎ由来の信号変化の検出を試みた。いずれも脂質2分子膜が存在することによる脂質分子のアルキル鎖由来の信号を観測することができ、銀ナノ粒子で増強された脂質2分子膜のラマンスペクトル、およびその強度変化の時間依存性を水中で測定することができた。得られた結果は脂質分子によってスペクトル形状、時間依存性ともに異なった結果となっており、脂質膜の相状態や流動性といったダイナミクスを反映した強度・構造変化を捉えたものである可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黒膜の界面張力測定を行うためのレーザー誘起界面変形分光については、現在までにデカン、その他の界面活性剤溶液を使って光圧により周期的に誘起された界面変形に伴うプローブ光強度変調の周波数依存性の検出からスペクトルを得ることができており、各種溶液の溶媒・溶質の違いに応じて周波数応答が変化することの確認を行うことができた。脂質溶液をテフロン膜に開けた孔に塗布するペインティング法により黒膜を形成した場合も、光路上の黒膜前後の溶液の密度を変化させ屈折率を変化させることで、界面変形に伴う信号を得ることができたが、いずれも界面張力を算出するに十分なSNの信号は得られていない点が課題である。黒膜のラマンスペクトル測定については、ペインティング法にて作製した黒膜のラマンスペクトル直接測定、および脂質溶液中に銀ナノ粒子を混在させることによる黒膜膜中の脂質分子のラマンスペクトル増強を目指したが、バックグラウンドの溶媒の信号を上回る十分な増強は得られていない。一方、ガラス板上に形成した脂質2分子膜については、表面増強ラマン散乱、および先端増強ラマン散乱を利用した水中測定により、各々の膜中の脂質分子由来のラマンスペクトルを取得することができた。得られたスペクトルは、脂質その他の組成の違いにより異なる相状態と流動性の違い等を反映してスペクトルの時間変化の様子が異なっていた。脂質膜の環境変化・組成変化による構造変化やドメイン形成など、今後のダイナミクス計測にも期待が持てる。
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今後の研究の推進方策 |
レーザー誘起界面変形分光については、種々の溶媒溶液の界面変形に伴うプローブ光強度変調の周波数依存性の結果から、定量的かつ良好なS/Nで界面張力値を得られるようにする必要がある点が黒膜の界面張力を行っていく上でのここまでの課題である。そこで、レーザー光強度の増加と検出方法・周波数特性の改善を図ることで定性・定量的に界面張力を得られるようにする。また、微小な空孔に張った脂質2重膜内の測定位置を詳細に設定するため、および細胞膜などにもレーザー誘起界面変形分光法を適用するため、顕微鏡下でも測定可能な測定系を構築する。これにより各種細胞についても界面張力に伴う界面変形の検出を行えるようにする予定である。脂質2分子膜のラマンスペクトル測定については、ガラス基板、および銀ナノ粒子を担持したガラス基板上での先端増強ラマン分光、表面増強ラマン分光による測定を予定している。複数の組成の脂質膜やドメイン形成が起きた脂質膜、プローブ分子を導入した脂質膜などについてもラマン分光測定を行い、相状態の変化や各種運動により微小な領域で刻々と変化していく脂質2分子膜のダイナミクスに関する情報を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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