銀超微粒子の表面プラズモン電場増強効果に加えて、鏡面結合型表面プラズモンを結びつけた超ラマン増強(U-SERS)素子を創製し、従来の医療診断用光技術分析法と比べて数百倍以上の感度を有し、微量成分検出が短時間で可能な超高感度メディカルセンサーとしての実用性を実証するとともに、その機構と最適基板構築のための条件を明らかにすることを目的として、1年間の計画的な研究を進めた。その主な成果は以下の通りである。 1)鏡面結合型素子の最適化: 当該の目的に資する銀超微粒子層の作成法として、DCスパッタ法の有用性を改めて確証した。その条件、特にDCスパッタ時の放電条件を適切に選択することにより、鏡面結合型の利点を最大限に活用できる構造を特定した。その結果、1012倍以上の集団平均SERS増強率の実現という究極の目標達成には至らなかったものの、従来SERS基板の平均的な増強率(104~106)を大きく上回る、1010倍以上の増強率が実現できることがわかった。 2)実用素子としての新たな課題の抽出とその解決法: 一方、メディカルセンサーとしての利用を図る上で、当該素子が極めて深刻な課題を抱えることもその後明らかになった。すなわち、医学・生物化学分析で常用される生理食塩水という環境に銀超微粒子が直接接触すると、ハロゲン化物イオンとの反応により銀超微粒子が即座に侵されて増強機能を失うという問題である。その解決法として、表面プラズモン増強電場を全く減衰させずに、その最表面に担持された検体分子のラマン信号を大きく増強する革新的な保護膜の開発に成功した。これにより銀超微粒子層の化学的・物理的な耐久性を十分確保した上で、最大108倍を超える実用素子を構築する道が開かれた。実際にこの素子を用いて、試験用色素分子のみならず、生体組織や細胞膜などの増強ラマン信号の検出にも成功した。
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