研究課題/領域番号 |
24655064
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
井口 佳哉 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30311187)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | エレクトロスプレー / 光散乱 / 分子分光 / 赤外分光 |
研究概要 |
本研究の目的は,エレクトロスプレー法をイオン源として用い,これと光散乱を利用した分光法を組み合わせることにより,大気圧下でイオンの分光学的情報を得ることである。24年度はこの最終目標に対する最初の実験として,エレクトロスプレーのシステムを既存の蛍光分光光度計内にセットし,蛍光性の生体関連分子であるトリプトファンをスプレーしてそのイオンを生成させ,そのイオンからの蛍光を観測することを試みた。この実験により,エレクトロスプレーにより生成したプロトン付加トリプトファンからの蛍光を非常に感度よく観測できることがわかった。また,エレクトロスプレーのニードルから蛍光を観測するポイントまでの距離を変化させながら蛍光スペクトルを観測したところ,その蛍光バンドは距離が遠くなるに従い次第にレッドシフトしていくことがわかった。これは,ニードルからイオンを含む液滴が放出され,対向板に向かって飛行していく際に,液滴から溶媒分子が蒸発することによりシフトしていると考えられる。また,従来のカチオンモードでのエレクトロスプレーの説明では,ニードルより放出される液滴にはカチオンのみが含まれているとされていたが,我々の実験結果から,液滴にはアニオンも含まれているが,カチオンの方が過剰に存在するために,カチオンモードで液滴が放出され飛行することが明らかとなった。 本研究の結果について,第6回分子科学討論会2012東京およびThe 9th Nano Bio Info Chemistry Symposium (Hiroshima)において発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ,大気下中でエレクトロスプレー法によりイオンを生成させ,そのイオンを分光学的に検出するところまで成功している。溶液での測定と異なり,エレクトロスプレーではニードルから溶液を開放空間へとスプレーするために,その実効濃度が非常に小さくなってイオンを分光学的に観測するのは難しいのではないかと考えていた。しかし実際には,エレクトロスプレーのニードルから放出される液滴のイオン濃度は,スプレーする前の溶液中の濃度よりもはるかに高く,従来の蛍光分光光度計でも十分検出可能であることが本研究により証明された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終的な目的は,溶液中に存在するイオンをエレクトロスプレー法により溶媒から取り出し,そのイオンの吸収スペクトルに対応する情報を得ることである。これまでの実験により,エレクトロスプレーのニードルから放出された液滴は,飛行しながら次第に溶媒分子を蒸発させていることが明らかとなった。しかし,ニードルから大気圧下で10センチメートルほど飛行した後でも溶媒の蒸発は十分でなく,イオンは液滴中に存在していると考えられる。そこで25年度は,エレクトロスプレーからの液滴を真空槽に設けたピンホールを通して真空中へと引き込み,そのピンホールを加熱することによって,液滴からの溶媒の蒸発を促進させることを試みる。溶媒分子が完全に除去されたイオンの検出には,分光学的手法よりも感度の高いイオン検出により行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度の研究費は,この溶媒蒸発システムの開発に必要なヒーター等の消耗品の購入に充てる予定である。
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