本課題では,エレクトロスプレー法により生成されるイオンに大気圧下で可視,紫外光を照射し,イオンと光との相互作用の結果生じる散乱光,蛍光を観測することにより,イオンの量子化学的情報(電子状態,構造,反応性など)を得ることを目的として研究を行った。 平成24年度は,エレクトロスプレーイオン源を現有の蛍光分光光度計の試料室に設置し,メチレンブルー等の芳香族色素分子のメタノール・水混合溶液をスプレーすることによりそのイオンを大気圧下で発生させ,可視光を照射し,色素分子イオンからの蛍光を観測した。この実験において,エレクトロスプレーのニードル先端と励起光の距離に対する蛍光スペクトルの強度,形状変化を観測したところ,ニードルから放出されたイオンを含む液滴から,溶媒分子が蒸発して液滴サイズが減少している様子が見いだされた。しかし,そのエレクトロスプレーからのイオン液滴は大気中で数センチ飛行しても脱溶媒が十分でなく,基本的に溶液と同じ分光学的結果しか与えないことが明らかとなった。 そこで平成25年度は,液滴からの脱溶媒を効率的に行い,生成するイオンを質量分析することを目標として,Paul型イオントラップと飛行時間型質量分析計をエレクトロスプレーイオン源と組み合わせた,イオン分光装置の開発を行った。その結果,エレクトロスプレーからイオントラップまでのイオン制御電場を最適化することにより,溶液中のイオンを脱溶媒し質量分析することに成功した。
|