研究課題
野生生物の中には様々な微量元素(重金属)を特異的に蓄積している種が存在する。長い寿命を持ち、海洋生態系の高次に位置するイルカやアザラシ等の海棲高等動物は、餌となる魚から相当量のメチル水銀(MeHg)を取り込むため、体内、とくに肝臓にHgを高蓄積している。これら海棲高等動物の肝臓中Hgのほとんどは無機Hg(IHg)に変換されており、Seと等モルで蓄積し、HgSeの複合体を形成している。このことから、海棲高等動物の肝臓では、餌から取り込んだMeHgが脱メチル化されてIHgとなり、Seと結合して生物学的に不活性なHgSeの形態となることによってHgは解毒されていると考えられている。しかしながら、MeHgの脱メチル化やHgSeの生成メカニズムは不明である。本研究の目的は、海棲高等動物におけるHgの無毒化メカニズムを解明するため、HgSe形成のカギとなるHgおよびSe結合タンパクの同定を試みることである。初年度は、まずタンパクの分離を試みた。試料は、愛媛大学沿岸環境科学研究センターのes-BANKに保存-80℃で保存したイシイルカ、キタオットセイ、クロアシアホウドリの肝臓を用いた。残念ながら、イシイルカの肝臓試料については実験に利用できる量が十分ではなかったため、その一連の実験を途中で断念した。液体窒素で凍結粉砕した肝臓試料をバッファーとともにホモジナイズした後、低温超遠心分離機でサイトゾル、ミクロソーム、リソソーム・核のフラクションに分離した。このうち、サイトゾルから総タンパクを抽出し、2次元電気泳動法を用いてタンパクを分離した。その結果、いくつか興味深いタンパクの発現プロファイルが認められた。すなわち、同じ種内でも、Hg濃度の高い個体と低い個体とでスポットの数・強度が異なった。また、種間においても大きな差がみられるスポットがいくつか確認することができた。
2: おおむね順調に進展している
Hgの高蓄積種と低蓄積種との肝臓を比較することで、発現パターンの異なっているタンパクが存在することが明らかになった。このことから、これら差のみられたタンパクが、おそらくHgとの相互作用をもたらす可能性をもっていることが示唆されたため。
まず、分析量が不足したイルカについて、肝臓試料の採取を試みる。キタオットセイ、クロアシアホウドリについては、さらに分析数を増やして再現性を高めるとともに、有意に差があったタンパクを特定する。レーザーアブレーション(LA)と接続した誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)でゲル全体のHg、Seの濃度分布を明らかにする。これにより、Hg、Seの高いスポットを探し出し、それらのゲルから抽出し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(MALDI-TOF-MS/MS)で処理する。得られたMS情報をデータベースと照合し、標的タンパクの同定を試みる。
タンパク質を精製し、2次元電気泳動で分離・抽出する研究のために、タンパク質精製キットと分離用ゲルを購入済み。(経理処理上、残額が発生したが、既に執行済みである。)
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