研究課題
野生生物の中には様々な微量元素(重金属)を特異的に蓄積している種が存在する。長い寿命を持ち、海洋生態系の高次に位置するイルカやアザラシ等の海棲高等動物は、餌となる魚から相当量のメチル水銀(MeHg)を取り込むため、体内、とくに肝臓に水銀(Hg)を高蓄積している。これら海棲高等動物の肝臓中Hgのほとんどは無機Hg(IHg)に変換されており、セレン(Se)と等モルで蓄積し、水銀セレニド(HgSe)の複合体を形成している。このことから、海棲高等動物の肝臓では、餌から取り込んだMeHgが脱メチル化されてIHgとなり、Seと結合して生物学的に不活性なHgSeの形態となることによってHgは解毒されていると考えられている。しかしながら、MeHgの脱メチル化やHgSeの生成メカニズムは不明である。本研究の目的は、海棲高等動物におけるHgの無毒化メカニズムを解明するため、HgSe形成のカギとなるHgおよびSe結合タンパクの同定を試みることである。昨年度は網羅的にタンパクプロファイルを明らかにしたが、今年度はHgが実際に結合しているタンパクの同定に着目した。そこで、キタオットセイの肝臓サイトゾルを用い、ゲル濾過カラムによって分離したフラクションのHgを誘導結合プラズマ質量分析計で測定した。その結果、高分子フラクションから高いHgが検出された。このフラクションをさらに濃縮し、陰イオン交換カラムで分離後、ゲル濾過カラムによって溶出させたところ、16.5分~18分の溶出フラクションにHgが検出された。これらのフラクションを電気泳動にかけたところ、4つのバンドが確認できた。以上のことから、これら溶出フラクションの中に、HgSe形成に関わるタンパクが存在すると推定された。今後は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(MALDI-TOF-MS/MS)で標的タンパクの同定を試みる予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件)
Journal of Material Cycles and Waste Management
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Science of the Total Environment
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