研究実績の概要 |
電荷逆転質量分析法を開発している中、イオン化エネルギーの低いアルカリ金属を用いると表面での電子移動が起こり、付着した物質が負イオンとして生成していると考えられる現象を見出している。アルカリ金属のイオン化エネルギーは、単体としてはCs: 3.89 eV, K: 4.14 eV, Na: 5.34 eVであり、気相反応で通常の分子が負イオン化するには大きな吸熱エネルギーとなり、熱力学的な説明ができない。しかし、アルカリ金属がフェルミ面が生成するように表面上で金属としての性質を示す時に原子のイオン化エネルギーより非常に小さな値を示す可能性がある。 一昨年度、リユース品ではあるが負イオンの生成効率や生成種を高分解能で調べる事が可能な日本電子製JMS-700T型のセクタータイプMS/MS質量分析装置を設置することができた。その装置に装着可能であると同時に、イオン源部の導入端子やイオン源の温度制御装置を利用することが可能なアルカリ金属の導入をできる新規負イオン源を設計し作成した。質量分析法のイオン源は通常数kVの高電圧に浮かす必要があるが、初期の実験では、アルカリ金属を気化すべく温度を上昇させるとCsが真空中に漏れ出し、装置故障の原因となるようなイオン源の高圧のリークが生じた。そのため、Oリングを用いるなど初期設計を何度か修正することにより高電圧リークの問題点を解決し、実際に高電圧に浮いた表面での負イオン生成反応が可能なイオン源とする事ができた。その結果として、質量分析法でイオン化の性能やキャリブレーションによく用いられるパーフルオロケロセンを試料として、化学イオン化法で生成する負イオンと比較して、今回開発したイオン化法を用いることにより、1000u以上の高質量領域に充分な強度での負イオンを観測した。種々な生体サンプルについても、そのイオン化を検討し続けている。
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