研究課題/領域番号 |
24655074
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
三浦 勝清 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (20251035)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ラジカル反応 / インジウム触媒 / 有機還元剤 |
研究概要 |
本研究では、安定・安価で低毒性の有機還元剤(ギ酸塩、2-プロパノールなど)やケイ素単体を用いて、有機ハロゲン化物から効率よく炭素ラジカルを発生させる方法の開発を目指している。平成24年度は、インジウム触媒と有機還元剤からインジウムヒドリド種を発生させ、これを利用する有機ハロゲン化物のラジカル還元について検討した。まず、三価インジウム塩(20 mol%)の存在下、1-ヨードドデカンと各種有機還元剤との反応を行ったところ、インジウムトリフラートとギ酸ナトリウムなどのギ酸塩を用いると、還元体であるドデカンが低収率ながら生成した。生成物の単離を容易にするため、基質として安息香酸 4-ヨードブチルを用いて、さらに反応条件や反応操作を検討した。副生成物の解析により、この反応では、ギ酸イオンによる置換反応や脱離反応が競争することがわかった。様々な検討の結果、インジウム塩(InX3, X = OTf, Cl, I, OAc)とギ酸ナトリウムをテトラグリム中、室温で30分ほど撹拌した後、基質を加えて180 ℃に加熱すると、安息香酸ブチルが収率60%程度で生成することがわかった。この反応条件を利用して各種有機ハロゲン化物の還元を試みたところ、第一級のヨードアルカンやブロモアルカン、ヨードベンゼン類の還元が収率40-60%で進行した。第一級ブロモアルカンの還元では、三ヨウ化インジウムの利用が効果的であった。一方、第二級のハロアルカンは脱離反応が優先し、還元体は全く得られなかった。この反応系をハロアルケンに適用したところ、低収率ながら環化体が生成し、反応がラジカル機構で進行していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の検討課題であった「インジウム触媒と有機還元剤を利用する有機ハロゲン化物のラジカル還元」について、遅れ気味ではあるが、ほぼ当初の計画通りに研究を進めることができた。すなわち、上記の報告通り、三価インジウム塩とギ酸ナトリウムの組合せにより、いくつかの有機ハロゲン化物の還元に成功した。しかし、反応温度を下げることができず、反応条件が過酷になってしまったことから、収率が中程度に止まり、基質適用範囲もかなり制限されている。また、ハロアルケンの環化反応も予想以上に低収率であり、反応条件の更なる改善が必要不可欠である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には、当初の予定通り、引き続きインジウム触媒と有機還元剤を利用したラジカル反応の開発に取り組む。上述のように、収率の向上と適用範囲の改善が今後の課題であり、触媒、添加剤や溶媒などの検討により解決を目指す。また、遷移金属錯体触媒とギ酸塩から生成するヒドリド錯体を利用したラジカル反応についても検討する。炭素ラジカルの発生に利用できる遷移金属錯体触媒を見つけるため、安息香酸 4-ヨードブチルのラジカル還元反応について検討する。ラジカル還元反応の触媒としては、①有機還元剤を利用する還元反応によく利用されているルテニウムやイリジウム錯体、②低原子価錯体が有機ハロゲン化物から炭素ラジカル種を発生させる能力を持つ鉄、コバルト、ニッケル錯体、③ラジカル移動剤として働くことが知られているジルコニウム錯体とその同族元素であるチタンやハフニウムの錯体などを用いて、その触媒活性を評価する。高い触媒活性を有する金属錯体触媒を用いて、ギ酸塩以外の有機還元剤(2-プロパノール、ホルムアルデヒド、ジヒドロピリジン類など)の利用を検討する。還元が効率よく進行する触媒と還元剤の組合せを用いて、さらに、溶媒や反応温度などの反応条件について検討する。その後、最適化した触媒、還元剤、反応条件を用いて各種有機ハロゲン化物および擬ハロゲン化物のラジカル還元を試みる。また、分子内ラジカル付加反応への応用も行う。効果的な遷移金属触媒が見つからない場合、研究計画を前倒しして、ケイ素単体を利用するラジカル還元について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
反応条件の検討に時間をかけ、適用範囲の検討が若干遅れたため、消耗品費の使用額が予定よりも少なくなった。また、良好な実験結果(収率)が多く得られず、学会発表を控えたため、旅費の一部を使用しなかった。これらのために当該研究費が生じる結果となった。当該研究費および平成25年度に請求する研究費は、上記の研究計画を実施するに当たり、主に、試薬および溶媒などの消耗品を購入する費用や、成果発表・研究調査のための旅費として使用する。
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