研究課題/領域番号 |
24655074
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
三浦 勝清 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (20251035)
|
キーワード | ラジカル反応 / インジウム触媒 / 有機還元剤 / 有機ハロゲン化物 / ラジカル還元 / ラジカル環化 |
研究概要 |
本研究では、安定・安価で低毒性の有機還元剤やケイ素単体を用いて、有機ハロゲン化物から効率よく炭素ラジカルを発生させる方法の開発を目指している。平成25年度は、前年度に引き続き、インジウム塩とギ酸ナトリウムを利用した触媒的ラジカル反応について主に検討した。これらの試薬から触媒的にインジウムヒドリド種を発生させ、有機ハロゲン化物のラジカル還元や、ハロアルケンおよびハロアルキンのラジカル環化に利用した。まず、前年度からの課題になっていた、ラジカル還元における反応収率の改善を図るために、反応混合物を詳細に分析し、低収率の原因を探った。その結果、基質のハロアルカンと溶媒のテトラグリムが反応していることがわかった。安息香酸4-ヨードブチルの還元反応を用いて溶媒の再検討を行ったところ、ジエチレングリコールジエチルエーテルを用いると安息香酸ブチルへの還元が効率良く(78%)進行した。また、これまでインジウムトフラートIn(OTf)3が有効な触媒であるとしていたが、この溶媒を用いてインジウム塩の再検討を行ったところ、反応時間は長くなるものの、三塩化インジウムInCl3を用いても、安息香酸ブチルは高収率(85%)で得られた。相当する臭化物や塩化物の還元では、三ヨウ化インジウムInI3が効果的であった。その他の基質の還元についても検討し、第一級ハロアルカンやヨードベンゼン類の還元に有効であることがわかった。この反応系を利用したハロアルケンの環化は低収率に止まったが、ハロアルキンの反応は中程度の収率で環化体を与えた。インジウム塩の代わりに種々の遷移金属触媒を用いて、ハロアルカンとギ酸ナトリウムとの反応を検討したが、現在までのところ、効率良く還元反応が進行する触媒系は見つかっていない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究課題のうち「インジウム触媒と有機還元剤を利用する有機ハロゲン化物のラジカル還元」については、反応条件の最適化が進み、いくつかの基質を高効率で還元することにも成功している。概ね当初の目標を達成しているが、反応温度を下げることができず、反応条件が過酷であること、ハロアルケンやハロアルキンの環化への応用例が少ないことなどが、今後の課題である。一方、遷移金属触媒の利用については、良い結果が得られていない。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度には、引き続きインジウム触媒とギ酸ナトリウムを利用した反応について検討し、特にラジカル環化反応の応用例を増やしたい。遷移金属錯体触媒とギ酸塩を利用するラジカル反応については、解決の糸口が見つかっておらず、別の課題である「ケイ素単体を利用するラジカル還元」を優先的に進める予定である。この課題については、具体的に次のように取り組んで行く。 まず、市販のケイ素片や粉末を希フッ酸やフッ化アンモニウム水溶液でエッチングすることにより、水素終端ケイ素を調製する。トリエチルボランEt3Bをラジカル開始剤として、安息香酸4-ヨードブチルのラジカル還元を行い、調製法の違いによる水素終端ケイ素の反応性の違いを評価するとともに、反応条件を最適化する。その後、各種有機ハロゲン化物および擬ハロゲン化物のラジカル還元、分子内および分子間ラジカル付加反応について検討する。反応に利用されたケイ素単体は表面がハロゲンで修飾されていると考えられ、このケイ素-ハロゲン結合をなくし、反応系中でケイ素-水素結合を再生できれば、ケイ素単体を有効に利用することができる。そこで、フッ酸やフッ化アンモニウム水溶液を反応系中に共存させることで、水素終端ケイ素を予め調製することなく、エッチングとラジカル還元反応を同時に行うことを検討する。ケイ素-水素結合を有する反応活性なケイ素表面を常に調製することで、少量のケイ素単体を用いる効率的ラジカル反応の開発を目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
授業等の公務のために国際会議への出席を見合わせたため、次年度使用額が生じる結果となった。 次年度使用額および平成26年度の研究費は、上記の研究計画を実施するに当たり、主に、試薬および溶媒などの消耗品を購入する費用として使用する。
|