研究課題/領域番号 |
24655077
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 正浩 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20174279)
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キーワード | 有機化学 / 合成化学 / 触媒 / 太陽光 |
研究概要 |
炭素-水素結合を切断してそこに不飽和結合を挿入できれば、原子効率よく骨格形成できる。これまでにアルキンやアルケンを挿入する反応は数多く知られているが、単純なケトンを挿入した例はほとんど知られていない。これは炭素-酸素二重結合が炭素-炭素二重結合よりも大きな結合エンタルピーを持つことに起因すると考えられる。本研究では炭素-水素結合にカルボニル基を挿入する手法の開発を目指して、N-メチル-N-フェニルアミノアセトフェノンから太陽光とロジウム触媒の作用により3-ヒドロキシ-3-フェニル-N-メチルインドリンを得る手法について、エネルギーの観点から解析した。 N-メチル-N-フェニルアミノアセトフェノンと3-ヒドロキシ-3-フェニル-N-メチルインドリンについてDFT計算を行うと、この分子変換は3.9 kcal/molだけ熱力学的に不利な過程であった。すなわち、この一連の分子変換の駆動力はその構造変化にはないことがわかった。続いて各段階についてもそのエネルギーを計算した。光反応段階はアゼチジノールの生成である。この過程は吸エルゴン反応であり、太陽光のエネルギーを吸収して、23.2 kcal/molほど歪みエネルギーとしてアゼチジン環に蓄えている。ロジウム触媒反応段階はアゼチジノールから3-ヒドロキシインドリンへの骨格転位反応であり、形式的にはアゼチジン環の炭素-炭素結合と窒素上フェニル基のオルト位炭素-水素結合の交換反応である。DFT計算によるとこの転位反応反応は19.3 kcal/molダウンヒルであった。四員環から五員環ができることがこの転位の駆動力である。すなわち、第一段階で形成した歪みの解消がこの反応の駆動力になっている。これらの結果より、この一連の分子変換の駆動力は太陽光のエネルギーに由来していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画のとおりに、N-メチル-N-フェニルアミノアセトフェノンから太陽光とロジウム触媒を用いて3-ヒドロキシ-3-フェニル-N-メチルインドリンを得る手法について検討し、そのエネルギー変化についての知見を得ることができた。また、合成法としての観点から検討を行い、インドール合成にも展開した。この手法により、従前に知られていた環化反応とは異なる位置選択性・官能基許容性でインドールを得ることができた。この成果はChemistry Lettersに掲載された。これらを踏まえて「②おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
上記の知見をもとに、光と遷移金属触媒を用いて炭素-水素結合を切断してカルボニル基を挿入する手法の開発に取り組む。具体的にはα-オキソ-N-アリルアミドから3-ヒドロキシ-3,4-ジヒドロピリドンへの環化について検討する。 すでに(1)αオキソ-N-アリルアミドに紫外光を照射すると、環化して3-ヒドロキシ4-ビニル-β-ラクタムが得られること、(2)得られたβ-ラクタムにロジウム触媒を作用させると環拡大して3-ヒドロキシ-3,4-ジヒドロピリドンが生成することを確認している。これらの反応に関して、①溶媒や触媒の配位子などの反応条件検討、②反応機構の解明を目的とした量論反応や量子化学計算、③有用物質や新規物質の合成検討を行う。これらの検討を通して実用に耐えうる触媒の開発や反応分子の構造変化の可視化、新規機能性材料の創製を目指す。 また、以上のような合理的戦略に基づいて新技術を着実に開発する一方で、斬新な反応の発見を目指したい。合成実験を実施していると、予想していた反応のみならず、説明のできない想定外の結果が得られることがある。これらを目的外の結果として斬って捨てずに、その新規性・有用性について随時検証する予定である。
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