キラル炭素中心の化学に比べ、キラルケイ素中心の化学はほとんど未開拓である。これは、ひとえによい不斉合成法がないためである。キラルケイ素中心の触媒的不斉合成法はわれわれが研究に着手した時点では、ジヒドロシランのエナンチオトピックな2つのヒドリドの一方を変換するという反応が唯一報告されているのみであり、一般性が低く、4級ケイ素中心の構築例はなかった。昨年度の検討では、キラルケイ素中心の新しい触媒的不斉合成法の開発を目指し、われわれが開発したロジウム触媒によるベンゾシロール合成反応における不斉配位子の添加効果を検討した。この反応は、通常不活性なケイ素-メチル結合の切断を伴って進行する類例のない触媒反応であるが、エナンチオトピックなメチル基の高選択的な活性化による4級不斉ケイ素中心の構築に成功した。この知見をもとに、このロジウム触媒系を活用したさらなる4級ケイ素中心の構築反応開発を検討した。その結果、ケイ素置換基をもつビアリールアミン誘導体の新しい触媒的環化反応を見出した。この反応には、熱力学的に不利なアリールロジウムからアルキルロジウムへの異性化、および炭素-ケイ素結合の活性化という2つの新しい素反応過程が含まれている。種々の対照実験の結果、ビアリールアミンの窒素上のメチル基の存在は必須であることがわかった。ケイ素置換基として、ジメチルフェニルシリル基を用いることで、4級不斉ケイ素中心を持つ化合物の合成へと今後展開する。
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