研究課題
ニッケル触媒存在下,ジケテンとアルキン及びジメチル亜鉛を加えると,それぞれ一分子ずつが位置及び立体選択的にカップリング反応を起こし,一段階で3-メチレン-4-ヘキセン酸を高収率で与えた。種々のアルキル及びシリル置換アセチレンも高収率で目的物を与える。非対称置換アセチレンも同様に反応するが,位置異性体の混合物が得られた。ジメチル亜鉛の代わりに種々の有機アルミニウムを用いて反応を検討したところ,反応挙動が劇的に変化する。アルキンとジケテンによる[2+2+2]環化付加反応が進行し,フェニル酢酸誘導体が選択的に合成できた。とりわけ有機アルミニウムとしてジエチルエトキシアルミニウムが効果的である。フェニル酢酸は非ステロイド系抗炎症剤の基幹中間体であるため,本法は医薬品の高効率合成手法としても有用である。一方,同条件下でホスフィン配位子を用いると,対称フェニル酢酸誘導体が選択的に得られた。つまり,ジケテンのメチリデン骨格が炭素-炭素結合切断反応を受け,形式的な[2+2+1+1]環化付加反応によって進行していると考えられる。詳細なメカニズムは明らかになっていないが,配位子の有無によりジケテンの反応性が劇的に変化した極めて興味深い結果である。
1: 当初の計画以上に進展している
今回,ジケテンのメチリデン炭素二重結合が切断反応を受け,形式的な[2+2+1+1]環化付加反応によってフェニル酢酸が形成する新規反応を見出した。本反応は,当初の計画の際では予想できなかったニッケル触媒による新しいメカニズムで進行していることが予想されるが,詳細は明らかになっていない。本反応を更に開拓すると共に,新しい炭素骨格形成への展開や拡張反応を図る立案の契機となった。
ジケテンのメチリデン炭素二重結合が切断反応を受けているかどうかをまず確認するために,C13またはH2ラベル化したケテンやアセチレンの反応を試みる。また,ジケテン以外に,メチレンラクトンを始め,エノール骨格に対する反応を検討する。新しい不飽和炭化水素化合物との合成や新しいフェニル酢酸との反応へ拡張する。
直接経費は,有機合成試薬,金属試薬などの消耗費へ充当する。
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