溶媒をパラ-キシレンにして、12-ヒドロキシステアリン酸によりマイカ表面上でゲル化させると、ゾル状態では濡れていた溶液が、ゲル化とともにはじくゲルへと転移することを、接触角測定および共焦点レーザーラマン顕微鏡観察により確認した。 今回は、溶媒を同じキシレンの異性体(メタ-、および、オルト-)にして同様の実験を行ったところ、全てのキシレン異性体で濡れの反転を確認した。既に、トルエンでは濡れの反転は起こらないことがわかっている。これら全ての溶媒はほぼ同じ表面張力を持つが、融点が大きく異なる。濡れの反転と融点の関係を定量化するため、反転強度を(反転直前の接触角の時間変化)に対する(反転直後の接触角の時間変化)と定義して解析すると、融点が上がるにつれ反転強度も大きくなる関係が得られた。融点は物質の凝集エネルギーに対応しているので、凝集エネルギーの大きい溶媒ほど濡れの反転が強く起こることを示唆している結果である。 パラ-キシレンゲルの共焦点レーザーラマン顕微鏡観察により、ゲル化に伴い溶媒がマイカ表面近傍から失枯しているのがわかっている。濡れがはじく方向へ変化したのは、溶媒が界面近傍から後退し、空気(溶媒の蒸気)が界面に侵入した可能性を示唆している。ゲル化により溶媒が界面からバルクに吸い込まれたとすると、吸い込む力が強いほうが濡れが反転しやすいと考えられるので、上記の結果は、溶媒の凝集エネルギーがゲルが溶媒を保持する大きな要因であることを意味する。これは、なぜ溶媒量に比べ100万分の1に満たないゲル化剤が溶媒を保持できるのかという疑問に答える基本的な研究結果である。
|