生体型情報処理システムはデジタルコンピュータと比較して高エネルギー効率な情報処理を行っており、予期せぬ環境変化において、アトラクター選択の原理に基づいて柔軟に振舞っていると考えられている。本研究は、そのような生体型情報処理を模倣するデバイスの基本素子の作製を材料科学の立場から追求している。 電子回路および数値シミュレーションより、遅延微分素子自身が発生する内部ノイズを用いた確率的遅延微分素子(SDDE)を設計した。高融点材料(ポリ(L-乳酸)[PLLA])と低融点材料(ポリ(ε-カプロラクトン)[PCL])とからなる非相溶高分子混合系薄膜を用いたデバイス素子を作製し、加熱による低融点材料の融解に伴うキャパシタの静電容量の時空間ゆらぎを調べた。 これらを特定の比率で混合し、スピンコート法を用いてガラス基板上に薄膜形成を行った後、熱処理を施したキャパシタ型素子を作製し、素子が持つ内部ノイズ特性を調べた。 ノイズ測定の結果、混合比PLLA:PCL=95:5(w/w)にて作製した素子(LC5)の方が、99:1にて作製した素子(LC1)よりも大きなノイズパワースペクトル密度(PSD)を表した。LC5のうち、130℃にて6 時間等温結晶化した素子 (130LC5) は、90℃にて 6 時間等温結晶化した素子(90LC5)よりも大きなPSD を示した。GIWAXD測定と合わせて考察した結果、適度な大きさのPCL液滴が大きな伝導の時間ゆらぎの原因であることが示唆された。 本研究で作製されたSDDEは、素子作製プロセスのうち、PLLA・PCL の混合比、および、冷却速度に依存した時間ゆらぎを表すことがわかった。作製した SDDEは、ノイズ駆動型の生体模倣型情報処理デバイスとして有用であることが示唆される。
|