研究課題/領域番号 |
24655097
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
東原 知哉 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (50504528)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 亜鉛錯体 / 精密重合 / π共役系高分子 |
研究概要 |
有機トランジスタ、有機薄膜太陽電池、有機メモリ等の光・電子デバイス開発において、ポリチオフェン類に代表される高分子半導体材料の開発競争が国内外で激化している。ポリチオフェンのレジオレギュラリティー、分子量、分子量分布等の一次構造制御やπ共役ブロック共重合体の合成を目標に、これまでGrignard試薬型チオフェンモノマーを用いたNi触媒移動型連鎖重合法が用いられてきた。しかしながら、Grignard試薬の高反応性により、含官能基チオフェンモノマーの重合には保護基の導入が不可避である。本研究では、立体障害が大きい亜鉛アート錯体(tBu4ZnLi2)を用いた全く新しい重合法、すなわち、保護基を必要としない含官能基チオフェンモノマーの化学選択的な連鎖重合法の開発を行ってきた。具体的には、3位にアルキルエステル基を置換した一連のハロゲン化チオフェンモノマー前駆体の合成に成功した。このモノマー前駆体tBu4ZnLi2との亜鉛-ハロゲン交換反応を行ったところ、エステル基を攻撃することなく100%の収率で期待した亜鉛アート錯体型モノマーを得ることにはじめて成功した。Ni触媒を用いた亜鉛アート錯体型モノマーの重合反応では、残念ながら、配位したNiとカルボニルの相互作用により、重合度が上がらないことがわかった。 一方、tBu4ZnLi2を用いたチオフェンモノマーの重合系をより詳細に明らかにするため、基本構造となるヘキシルチオフェンモノマーの重合系に焦点を当て、収率や分子量、分子量分布の制御に対するNi触媒の最適化を試みた。具体的には、Niの配位子を変えることにより、高収率>90%、分子量2-30Kの制御、および極めて小さい分子量分布(1.05以下)、高いレジオレギュラリティー>97%の達成が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回亜鉛錯体型の新規モノマーを設計・開発し、その重合挙動について詳しく調べることを目的としている。実際にエステルなどのGrignard試薬に対して反応性の高い官能基を導入したモノマーでも亜鉛錯体と共存することがはじめて明らかとなった点では、目的の一部を達成している。重合において、Niや配位子の効果を詳しく調べるため、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)の合成に焦点を当て、これまでよりも重合系の精密な制御が可能となったことからも順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ポリ(3-ヘキシルチオフェン)および含官能基ポリチオフェン誘導体の合成に注力する。また、有機薄膜太陽電池材料への応用において、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)はHOMO値が-5.0~-4.9 eVであり、n型にPCBMを使用する場合に得られる開放電圧(Voc)値は0.65V以下である。PCE = 5%以上の高効率化を図るためにはp型半導体のHOMO値を下げ、Voc値0.8V以上をねらう必要がある。エステルやケトンは電子吸引効果により、HOMO順位を下げ得ることからそれらを置換したポリチオフェンの合成が可能になれば、有機薄膜太陽電池におけるVoc値とPCEの向上が期待できる。したがって、H25年度は、亜鉛錯体を利用したチオフェン誘導体の精密重合系検討と平行して、エステルフェニル等の電子吸引基を置換したポリチオフェンシリーズの合成とその有機薄膜太陽電池材料としての評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度は、購入を予定していたIPCE測定装置が既存の代替機器の使用により必要なくなったため、繰越金710,855円が発生した。H25年度は、研究をさらに加速させるため、H24年度の繰越金とH25年度予定額の合算により研究費を使用する予定である。H25年度研究費の内訳を以下にに説明する。H24年度に引き続き、合成及び重合実験を行うため、消耗品として試薬・溶媒代および反応器具一式を計上した。得られた成果の発表及び情報収集のため、学会出席のための旅費及び参加登録料(その他)を計上した。さらに、英文論文作成を予定しているため、英文校正料も計上した。これらは研究の遂行に不可欠であり、それぞれの申請額は過不足のない範囲内である。
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