研究課題/領域番号 |
24655100
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
瀬 和則 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00154633)
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キーワード | オール・オア・ナッシング機構の分解 / 高分子の選択分解反応 / 解重合 / ポリ(n-ヘキシルイソシアナート) / 分岐高分子 / ポリ(α-メチルスチレン) / 新規な分子設計法 / ナノ材料 |
研究概要 |
ポリ(n-ヘキシルイソシアナート)(以下PHICと略す)を用いて,「オール・オア・ナッシング型の高分子選択分解反応を用いた全く新規な高分子材料の創製」の研究を遂行するのが全体構想である。3年計画の中で,2年目の平成25年度において,「完全分解性を有する新規な汎用性高分子の創製」を目的に研究を推進した。 一つ目の研究成果として,「片末端にヨウ素を付加したポリ(α-メチルスチレン)(以下PαMS-Brと略す)の合成」に成功した。この高分子のBr末端基をナトリウム・アルコキシドにより引き抜くと,引き抜かれたその構造が一種のリビング状態になるため,PαMSの解重合が優先的に進行する。この分解機構を利用して分解反応を行ったところ,「オール・オア・ナッシング型の高分子選択分解反応」が進行したが,その分解速度は遅かった。そこで,もっと強い塩基であるt-ブチルリチウムを用いて分解反応を行ったところ,分解速度は速くなった。しかし,t-ブチルリチウムは空気中に含まれる水分により自らが分解されるため,PαMS-Brの分解反応を真空下で行わざるを得なかった この弱点を克服するため,二つ目の研究成果として,臭素よりも引き抜き反応性が高いヨウ素を片末端に付加したPαMS-Iを合成した。この高分子のI末端基をナトリウム・アルコキシドやt-ブチルリチウムにより引き抜き,「オール・オア・ナッシング型の高分子選択分解反応」を行った。分解速度定数に及ぼす塩基種の違いや塩基濃度依存性より,汎用性高分子であるPαMSの分解挙動を解明した。 三つ目の研究成果として,ポリイソプレン(以下PIsと略す)とPαMSとのブロック共重合体の片末端にヨウ素を付加したPIs-block-PαMS-Iを合成した。この高分子のPαMS-Iブロック部分を選択分解して,新規なナノ材料を創製すべく研究を発展させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリ(n-ヘキシルイソシアナート)(PHIC)を用いて,「オール・オア・ナッシング型の高分子選択分解反応を用いた全く新規な高分子材料の創製」の研究を遂行するのが全体構想である。 その中で,2年目の平成 25年度において,「完全分解性を有する新規な汎用性高分子の創製」を研究目的に設定した。汎用性高分子の一つであるポリ(α-メチルスチレン)(PαMS)の片末端に臭素を付加したPαMS-Brを合成することに成功した。アルコキシドやt-BuLiによる分解反応を行ったところ,PαMSの分解は進行したが,それらの分解速度は遅く,当初の研究目的の約60%を達成するに留まった。 そこでBrより分解速度が速いと予想されるヨウ素を片末端に有するPαMS-Iを合成することに成功した。アルコキシドやt-BuLiによる分解反応を行い,PαMSの分解挙動を系統的に検討した。当初の研究目的の約70%を達成することができた。 一方,将来のナノ材料への展開を意図して,ポリイソプレン(PIs)とのブロック共重合であるPIs-block-PαMS-Iを合成して,その分解挙動も検討した。新素材の創製に成功したが,時間的制約のためナノ材料創製のための詳細な検討には至っていない。この研究項目は当初の研究計画には含まれていなかった課題であり,発展的な研究課題である 当初の研究計画には,PIs-block-PαMS-Iの合成は含まれていなかった。それを行ったことを考慮して総合的に判断すると,平成 25年度における研究目的の達成度は 80%程度であり,研究はおおむね順調に進展したと思う。
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今後の研究の推進方策 |
ポリ(n-ヘキシルイソシアナート)(PHIC)を用いて,「オール・オア・ナッシング型の高分子選択分解反応を用いた全く新規な高分子材料の創製」の研究を遂行するのが全体構想である。3年計画の中で,初年度の平成24年度では,「PHIC鎖から成る新規な分岐高分子の創製」を目的に研究を推進し,研究目的の達成度は90%程度であった。2年目の平成25年度では,「完全分解性を有する新規な汎用性高分子の創製」を目的に研究を推進し,研究目的の達成度は80%程度であった。当初の3年計画の内の2/3が経過した現時点において,研究はおおむね順調に進展してきたと思う。 得られた研究成果を基にして3年目の平成26年度では,「分解性高分子による新規なナノ材料の創製」を目的に研究を推進する予定である。具体的な研究課題として,(1)初年度で合成したPSt-graft-PHICグラフト共重合体のPHICグラフト鎖をオール・オア・ナッシング機構により選択分解させて「PHIC鎖を鋳型とするナノ材料の作製」を行い,(2)これら試料が固体状態で形成する高次構造を制御して「規則的な空隙構造を有するミクロ相分離構造の創製」研究を行う。(3)2年目で合成したPSt-block-PαMS-Iブロック共重合体を用いて,その試料が固体状態において形成するミクロ相分離構造のPαMS相領域を選択分解させて,より応用的な課題である「ナノチューブやその空孔体の作製」へ研究を発展させる予定である。
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