硝子体ゲルはコラーゲン繊維とヒアルロナンから構成されるバイオハイドロゲルであるが,固体成分が約1%の希薄な多成分ゲルである,またin vivoで非侵襲的に硝子体のみからの必要とする情報を得る手段が確立されておらず,構造・物性を理解するための解析的な理論が構築されていないなどの困難があった。そこで,本研究では,in vivoで非侵襲的に硝子体のみの状態解析(ダイナミクス・力学物性)方法論の確立,②他の測定方法の結果との整合性について検討を行った。具体的な成果は以下の通りである。 (1)硝子体の複雑な構造の変化は,ある種の疾病を誘発すると考えられ,硝子体のゲルとしての物性,ダイナミクスを明らかにすることは,疾病の分子レベルでの解明に重要な意味を持つ。硝子体ゲルの動的光散乱実験(DLS)では,それぞれのダイナミクスがカップリングしたモードを観測することになる。しかしながら,これまでの研究は観測される2つの成分は,それぞれコラーゲン,ヒアルロナンからの独立した寄与であるとする考えが主流であったため,測定結果を定量的に説明することは出来なかった。そこで2つのカップリングしたモードを考慮した相関関数を導き,実験結果を検証に成功した。 (2)臨床現場において診断で使用するためには,硝子体の様々な局所部位をプローブできることが重要である。 そこで,2本のシングルモード光ファイバーと2個のGRINレンズからなる光学系を用いたコンパクト動的光散乱装置を設計・試作した。すなわち,1本の光ファイバーで測定対象に半導体レーザーから光を導き,もう1本の光ファイバーで散乱光を検出器に導いた。本DLS装置では,従来型DLSの散乱体積2 mm3を,2 μm3程度に小さくすることが可能であるため,硝子体内のより局所的な状態を観測することができる特徴を有し,従って,病態変化のより初期段階の診断,人工硝子体と組織界面での局所的な状態を非侵襲的に観測が可能となった。
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