研究課題/領域番号 |
24655109
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷川 靖哉 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80324797)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 錯体 / 希土類 / 光機能 / 磁気機能 |
研究概要 |
希土類イオンを一つ含む希土類錯体は一般に常磁性である。磁性と光物性の相関解明および機能化をめざすためには、希土類イオン同士の強磁性的相互作用を発現させる必要がある。ここで、複数の希土類イオンが酸素で架橋した希土類クラスターの合成検討を行った。 具体的には、ミューオキソ架橋のテルビウムクラスターを合成するため、フェノール誘導体を含むクラスター合成の検討を行った。フェノールの2位にカルボン酸が導入されたサリチル酸を出発原料とし、エステル化により二座配位子を合成した(サリチル酸メチル、サリチル酸エチル、サリチル酸ブチル、サリチル酸プロピル)。得られた配位子と硝酸テルビウムとの錯化反応を行い、Tb3+クラスターの合成を試みた。 合成検討の結果、一つの分子内にTb3+イオンを9個有するテルビウムクラスターであることがFAB-MS測定により明らかになった。さらに、得られた分子の再結晶を試み、単結晶を作製することに成功した。得られたテルビウムクラスターをX線構造解析により評価したところ、そのクラスター立体構造がサリチル酸エステル配位子の分子構造に依存して変化することを明らかにした。特に、サリチル酸メチルを有するテルビウムクラスターは非対称性が高いことが明らかになった。 以上、サリチル酸エステルを配位子としたテルビウムクラスターの合成に成功した。また、そのクラスター立体構造はサリチル酸エステル配位子の分子構造に依存して変化することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規に合成したサリチル酸エステル配位子(サリチル酸メチル、サリチル酸エチル、サリチル酸ブチル、サリチル酸プロピル)を用いて、本研究の研究対象として目標としていたテルビウムクラスターの合成に初めて成功した。 さらに、その単結晶合成にも成功し、X線構造解析によりそのクラスター構造を明らかにした。また、そのクラスターの立体構造はサリチル酸エステル配位子の分子構造に依存することも今回初めて見いだした。その分子構造は予想していたものとほぼ同一構造であり、磁気機能研究をおこなう上での良好なモデルとなることが明らかとなった。 以上のことから、本研究対象であるテルビウムクラスターを構築に成功し、その構造を明らかにしたため、交付申請所に記載した研究の目的の達成度について、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
25年度では、さらなるニューオキソ架橋のテルビウムクラスターを設計・合成し、X線構造解析によりクラスター構造を明らかにする。さらに、基礎光物性評価に加えて、磁気特性評価も行う。 1)アルコール誘導体架橋のクラスター合成:申請者がこれまで報告してきた低振動型希土類錯体Ln(hfa)3にアルコール誘導体を導入した新規なクラスター合成の検討を行う。導入するアルコール架橋配位子は水酸基が2つある構造異性体を検討する。 2)磁性評価:24年度および本年度に合成したテルビウムクラスターの磁気機能評価を行う。具体的には、SQUIDを用いてM-T(磁化率の温度依存性)およびM-H(磁化率の磁場依存性)測定を行う。得られたM-Hから保持力を見積もり、希土類クラスターの内部に発生する強磁性的相互作用の評価を行う。この評価方法に関してはGao等のディスプロシウム(Dy3+)磁性錯体に関する先行研究を参考にする。希土類の強磁性的相互作用の発現に関しては、BaxterのGd3+二核錯体およびMereacreのLn3+-Mn2+クラスターが知られている。このことから、本研究のテルビウムクラスターは強磁性的相互作用の発現が大いに期待される。強磁性発現のための最適なクラスター構造を明らかにし、クラスター設計へとフィードバックする。 3)光磁気評価:テルビウムクラスターをポリマーに分散し、偏光回転スペクトル(ファラデー効果)の測定を行う。得られたスペクトルからベルデ定数を計算し、クラスター構造との相関について考察を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
なし
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