研究課題/領域番号 |
24655110
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
稲辺 保 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20168412)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 電荷移動錯体 / 分子運動 / 極性反転 / 極性アクセプタ / 相転移 / 極性ドナー / 強誘電体 |
研究概要 |
本研究では、双極子モーメントの動的な極性反転運動の自由度を与える構造として電荷移動相互作用の弱い交互積層型構造の結晶を提案し、円盤状非対称中心型で双極子モーメントを持つアクセプタ分子がフリップフロップ運動をすることで強誘電性が発現する機構を提唱し、極性アクセプタ分子の「動的な」機能性を明らかにすることを目的とする。 目的の交互積層型電荷移動錯体のアクセプタ成分には、アクセプタ性が弱く、平板円形に近い形状を持ち、C2v対称性を持つ、という条件が課されるが、24年度はそのような分子としてTCPA (tetrachlorophthalic anhydride)、TBPA (tetrabromophthalic anhydride)に注目し、電荷移動錯体をいくつか作製した。pyrene-TCPAの場合、室温の結晶中ではpyrene及びTCPAの両方が激しい熱振動を起こしていることを示唆する配向のdisorderが観測され、冷却すると290 Kと170 Kで相転移を示すことが見出された。これらの相転移で分子運動は段階的に押さえられ、170 K以下では分子運動が示すdisorderは消滅する。これらの過程で結晶の対称性は低下しているが、温度履歴によって対称性が変化することが示唆されており、今後詳細について調べる予定である。同様にpyrene-TBPAにおいても分子運動と相転移が観測されており、TCPA錯体と同様の分子運動が示唆されている。また、非対称中心型のドナー成分を用いればカラムは反転対称を持たないため、結晶全体の極性反転方向は結晶中の対称要素に関わらず一方向に揃うことが期待され、実際azuleneをドナー成分とする結晶は極性空間群で結晶化することが見出された。また、極性ドナー成分として1-fluoropyreneの合成も同時に進めており、電荷移動錯体の作製にも成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書の計画に記載したTCPA, TBPAの電荷移動錯体の作製は順調に進めることができた。また、結晶構造も予想した通り交互積層型であり、さらに室温では分子面内方向でのかなり大きな分子回転運動が示唆される配向のdisorderが観測された。このdisorderは温度低下によって押さえられ、分子運動が回転からフリップフロップへと段階的に変化することが見出された。特にpyreneとの組合せでは、温度変化をゆっくり行うことで低温相が極性空間群となることが示唆されており、この状態で外部電場によって結晶の極性を反転できれば、当初の目的である強誘電性の発現に成功したことになる。
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今後の研究の推進方策 |
上記のpyrene-TCPA錯体は低温で極性結晶となることから、今後はこの相の強誘電性を誘電率の温度変化および分極-外部電場のヒステリシスの測定により確認することに注力する。また、同様の分子運動の特徴を持つ電荷移動錯体は他にもいくつか得られており、これらの構造的な共通性を抽出し、動的な機能性に基づく物質設計の指針を探る予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
経費の節減(申請当初購入を計画した電気炉を無償で入手)によって生じた使用残と25年度の予算を併せて、連携研究者および学生のシンガポールで開催される国際会議(ICMAT 2013)での本研究成果の発表のための旅費、試料作製のための試薬類、ガラス器具類の購入、物性測定に伴う消耗品の購入に充てる。
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