研究概要 |
本研究では、双極子モーメントをもつ分子の動的運動の自由度を与える電荷移動相互作用の弱い交互積層型構造の結晶を中心に、極性分子がフリップフロップ運動をすることで誘電応答を示す物質の開発を目的とした。 円盤状の極性アクセプタ、TCPA (tetrachlorophthalic anhydride)および類似化合物について、電荷移動錯体を作製し、相転移で分子運動が段階的に停止する錯体を見出した。特にpyrene-TCPAの場合、室温では激しい熱振動に対応する配向のdisorderを示すが、290 Kと170 Kでの相転移で分子運動は段階的に押さえられ、170 K以下では分子運動が示すdisorderは消滅する。これらの過程で結晶の対称性は低下するが、温度履歴によって対称性が変化することが判明した。つまり、90 Kまで急冷した場合、TCPAはお互いに逆向きの2種類の配向で固定化されるが、165 Kで1日放置してその後回折測定を行うと、極性空間群となり、TCPAの配向が一方向に揃うことが分かった。分子配向の変化によって極性が生まれるという状況は本研究の目標である強誘電性に直接繋がるが、運動がかなり遅いため、通常の周波数の誘電率の測定では強誘電体への転移の検出は難しいことが分かった。 非対称中心型のドナー成分を用いればカラムは反転対称を持たないため、結晶全体の極性反転方向は結晶中の対称要素に関わらず一方向に揃うことが期待される、そこで、極性ドナー成分として1-fluoropyreneの合成を行い、TCNQ, TCNB, DDQ, PMDAとの錯体結晶の作製に成功し、分子運動を示唆する配向のdisorderを観測した。また、極性有機カチオンを用いたイオン結晶も作製し、室温で極性空間群となる物質も見出している。
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