研究課題
ポリエチレングリコール(PEG)に対する構造学的な影響を調べることを目的に、二、三次元的な骨格から成る構造化PEGや、両親媒性を導入したPEGを開発した。これまでに、テトラエチレングリコール(TEG)とペンタエリスリトールを組合せた三角形PEGを開発し、直鎖状PEGと比べ脱水和温度が低下し、タンパク質の熱凝集を効果的に抑制する性質が現れることを見出している。最終年度ではタンパク質の種類を増やし、その一般性や効果発現のためにもっとも重要な要素の探求を行った。その結果、タンパク質の変性温度と三角形PEGの脱水和温度との関係が重要であることがわかった。さらにフェニル基を導入したTEG、およびオクタエチレングリコール(OEG)を開発し、その物理化学、超分子化学的特徴を精密に調べ、エチレングリコール鎖の長さの効果を調べた。その結果、水中、室温でいずれもミセルと推測される分子集合体を形成するものの、熱に対する応答性に明確な違いが見られることがわかった。つまり、フェニルTEGでは、温度上昇に連れて集合体のサイズが小さくなることから、ドデシル硫酸ナトリウムなどのイオン性両親媒性分子に似た応答を示すことがわかった。対照的に、フェニルOEGでは、温度上昇に連れて集合体のサイズが大きくなることが確認された。これは、エチレングリコールユニットの、親水的なゴーシュ形から疎水的なアンチ形への熱による構造変化に起因するものと考えられ、熱応答性を有するPEGに特有の性質であると考えられる。従って、PEG鎖の長さによって、両親媒性分子の温度応答性が劇的に変化することが明らかとなり、機能性両親媒性分子の設計において重要な知見が得られたと考えている。一連の研究の中で偶然発見された、多段階求核置換反応についても研究を進め、保護基交換反応などへの有用性を示すことができた。
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