研究概要 |
本研究課題では、pH応答スピンクロスオーバー錯体膜の開発プロトン流の直接観測を目的としている。平成24年度は、スピン転移温度がpHに依存する室温スピンクロスオーバー鉄錯体[Fe(II){(NH2)2sarH}](sar = 1,8-diamino-3,6,10,13,16,19-hexaazabicyclo[6,6,6]icosane)をイオン交換膜Nafionのナノ空間反応場で合成し、この透明スピンクロスオーバー鉄錯体膜に電圧を印加することによりプロトンの濃度勾配を発現させ、低スピン状態と高スピン状態の時空間制御を行った。pH = 4.5で作製したpH応答透明スピンクロスオーバー錯体膜に電圧を20 V印加したところ、膜の色が黄緑色から深い緑色に変化し、電極の極性を入れ替えると膜の色が深い緑色から黄色に変化する現象を捉えることに成功し、プロトンの流れを可視化することができた。 [FeII(diAMsar)]は、酸性側では両端にあるアミノ基にプロトンが付加することでFe(II)-配位子間距離が膨張し高スピン状態をとるが、塩基性側では脱プロトンによりFe(II)-配位子間距離が縮み低スピン状態をとるものと推定される。このことを実証するため、高エネルギー加速器研究機構・放射光施設においてEXAFSの実験を行い、pH応答スピンクロスオーバー錯体膜のスピンクロスオーバー転移に伴うFe周りの局所構造変化を調べた。pH = 4.5で作成した錯体膜では[FeII(diAMsar)]の両端にあるアミノ基にプロトンが付加することでFe(II)-配位子間距離が膨張し高スピン状態をとること、pH = 10で作製した錯体膜では脱プロトンによりFe(II)-配位子間距離が縮み低スピン状態をとることを実証することができた。
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