研究概要 |
本研究課題では、基底スピン状態がpHに依存するスピンクロスオーバー錯体膜の開発とこの錯体膜を用いたプロトン流の直接観測を目的としている。平成25年度は、スピンクロスオーバー鉄錯体[Fe(II){(NH2)2sarH}](sar = 1,8- diamino-3,6,10,13,16,19- hexaazabicyclo[6,6,6]icosane)をイオン交換膜Nafionのナノ空間反応場で合成し、この膜に電圧を印加することによりプロトンの濃度勾配を発現させ、低スピン状態と高スピン状態の時空間制御を行った。かご型の6座配位子、diAMsarが配位した[Fe(II)(diAMsar)]錯体は、酸性側では両端にあるアミノ基にプロトンが付加することでFe(II)-配位子間距離が膨張し高スピン状態をとるが、塩基性側では脱プロトンによりFe(II)-配位子間距離が縮み低スピン状態をとるものと推定される。 これを実証するため、高エネルギー加速器研究機構・放射光施設において、pH = 4, 7, 10で作製した[Fe(II)(diAMsar)]@Nafionについて室温および50 KでXANESおよびEXAFSの実験を行った。pH = 4, 7, 10におけるFe-K XANESスペクトルから、酸性および中性下ではFe(II)の高スピン状態が、塩基性下ではFe(II)の低スピン状態が主に実現されていることが確認された。また、EXAFSの解析により、pH = 4.5で作製した錯体膜では[Fe(II)(diAMsar)]の両端にあるアミノ基にプロトンが付加することでFe(II)-配位子間距離が膨張し高スピン状態をとること、pH = 10で作製した錯体膜では脱プロトン化によりFe(II)-配位子間距離が縮み低スピン状態をとることを実証することができた。
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