研究課題/領域番号 |
24655119
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山口 孝浩 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (90272947)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 燃料電池 / 酸素還元 / 電極触媒 |
研究概要 |
固体高分子型燃料電池白金代替酸素極を念頭に、申請者等の開発した熱処理鉄ポルフィリンにおいて、白金系とは異なる新規酸素還元機構の証明、酸性下での長期動作安定性を明らかにすると共に、応用展開を狙って、本触媒を配向制御したまま集電剤へ担持する手法の確立に挑戦することを目的とした。 初年度(平成24年度)は、電気化学水晶振動子マイクロバランス法にて溶存酸素の有無における自然電位と振動数変化を追跡し、ポルフィリン鉄の高酸化状態を捉えることで、反応機構の証明に試みた。水晶振動子電極はその構造上、直接高温での熱処理が不可能であり、触媒粒子を物理的に固定する際も均質、最小限で展開する必要が有る。乳鉢、超音波ホモジナイザで破砕、分散した触媒塗布溶液を調整することで、現状における最小限塗布方法とした。この作成法により、回転リングディスク電極測定が可能となり、本年度購入したバイポテンシオスタットを用いた回転リングディスク電極で酸素還元生成物の評価も次年度以降の予備実験として実施している。しかし、水晶振動子マイクロバランス法では溶存酸素の有無、電位印加等の条件を与えても、微かな振動数変化しか得られず、再現性がないことから、振動数変化による酸素吸脱着評価は断念した。一方で、自然電位の変化は酸素吸脱着で再現良く変動したため、この変化を元に検討を行った。バリウム鉄ポルフィリン電極の自然電位は脱酸素下で620mV vs Ag|AgCl付近、酸素を溶存させると680mVまで上昇し、再び窒素脱気で電位は低下した。680mVは本触媒の酸素還元開始電位に相当している。コバルトポルフィリンでも同様の測定を行ったところ、脱酸素下では320mV、酸素を溶存させると600mVへと大幅な上昇を示した。この変化は酸素の吸着による中心金属の酸化状態を示すと予想しており、鉄ポルフィリンの高酸化状態の存在を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度計画は、溶存酸素の存在の有無において、本触媒を水晶振動子マイクロバランス法による振動数変化と自然電位変化から、酸素還元反応機構を検討するだけでなく、架橋イオン、ポルフィリン末端基、ポルフィリン中心金属の変化による比較から、ネットワーク構築の確認とメディエータ型酸素4電子反応を検討することも予定していたが、これら全てについては達成できていない。本触媒を利用した酸素還元反応電子数評価の回転リングディスク電極電極の測定は予備実験段階である。特にポルフィリン末端をスルホ基からカルボン酸へと変更して、同様のカチオン架橋ポルフィリンを調整することは本触媒のカチオンによる効果並びに推定架橋構造を確立するために欠かせない検討事項ではあったが、未達成である。 水晶振動子マイクロバランス法のための電極作成方法の確立に試行錯誤した割には、その成果が芳しくなかったことが大きな要因である。しかし、従来は本触媒をカーボンブラック等に担持するしか、反応電子数の評価が行えなかったことを考えると、この均質かつ最小限での触媒塗布型電極作成法は今後の検討に非常に有用なものである。 加えて、自然電位の測定に対しては、かなり再現良い結果が得られており、この変化は鉄ポルフィリンの酸素吸着による高酸化状態への移行を示唆する、次年度以降につながる重要な成果が含まれていることから、自己点検評価はやや遅れているとの評価が妥当と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在の進行状態から、本研究に従事する学生を増員して実施する。平成25年度は今回、得られた自然電位による結果を元に、分光学的評価から本触媒の酸素吸着による高酸化状態への移行を明らかにすることを第一目的とする。本触媒の吸収スペクトルを直接測定するには、固体かつ、熱処理後は黒色(煤)であることから困難であると考えられる。従って、最初に架橋していない鉄ポルフィリンを溶液として、溶存酸素吸着による吸収スペクトルを測定し、その溶液中での平衡電位測定と併せて、中心鉄の酸化状態を検討することで第一目的を達成する。二点目は、未実施であった4つのカルボン酸を持つ鉄ポルフィリンを合成し、バリウムイオンとのイオン結合から、本触媒のイオン架橋構造決定へと導くこととする。またこの構造決定に関連して本触媒の熱処理温度に対する効果は種々の温度時間設定で得た触媒の電気化学的評価だけではなく、DART等の分析、外部委託による組成分析を加えての検討を実施する。今年度からの電気化学評価では回転リングディスク電極を用いた過酸化水素の検知が可能となるため、酸素還元反応電子数も併せて評価を行う。また平成26年度に向けて、当初計画通り、カチオン架橋による耐酸性、安定性の評価、集電剤となる炭素微粒子への担持方法の検討に取り掛かる。特に本触媒の耐酸性、安定性評価を行い、バリウムイオン架橋による効果を明らかにするために、平成24年度実施の水晶振動子マイクロバランス法が利用できるため、酸性溶液下での触媒の質量変化を測定することで評価に結びつけることを計画している。これら26年度予定の検討課題は25年度中に予備実験に取りかかれるよう準備する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は若干予算執行が予定額を下回ったが、これは研究進度が遅れたためである。平成25年度は、測定装置など高額物品の購入予定はなく、試薬や分析等にかかる消耗品と触媒の成分分析などの外部委託、機器使用料、学会発表に予算を充てる計画であったことから、平成24年度残額は平成25年度物品費として組み込んで使用することとする。
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