本研究は、イオン電導性を有する液体触媒を開発し、物質転換に適用するものである。ここでは私たちが見出した分子設計指針を適用して、いくつかの錯体触媒をイオン液体化した。 前年度の継続として、配位子部分に種々の骨格を導入したアレーンルテニウム系イオン液体を合成し、その触媒能を検討した。結果、アルコール酸化、ケトンの還元反応のそれぞれについて、良好な触媒活性を示す液体触媒が実現した。これら両方の反応に対して活性を示す可能性のあるイオン液体も見出されたが、精製が難しいことが判明したため、詳細な検討には至っていない。 これらの検討に加え、原子移動ラジカル重合反応に対して触媒活性を示す銅錯体のイオン液体化を試みた。イオン液体化のために、アルキルイミダゾール部位を組み込んだ三脚型配位子を設計した。これらの配位子およびクロリド配位子を有するカチオン性銅(II)錯体を合成し、そのTFSA塩およびPF6塩を合成した。配位子に長鎖アルキル基を導入したTFSA塩は室温イオン液体であった。これらは非常に高粘度の液体であり、低温でガラス転移のみを示した。一方、短鎖アルキル基を持つ錯体は固体であった。結晶構造解析によってこれらの配位構造を明らかにし、吸収スペクトルの間に相関を見出した。さらに、銅(I)錯体からなるイオン液体の合成を試みたが、これらは液体状態では酸素に対して極めて不安定であることが判明した。
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