研究課題
本年度は、種々のシクロデキストリン・フラーレン誘導体錯体の光線力学(PDT)活性を評価した。まず、がん細胞に対するPDT活性を置換基の違いにより比較検討した。その結果、カチオン性置換基を持つフラーレン誘導体が、中性の置換基を持つものに比べ、圧倒的に高い活性を有し、より低濃度でがん細胞を死滅させることができた。しかも、このとき、PDTに適した波長領域である600 nm 以上の光の照射によって活性が確認された。このときの値は、従来のPDT薬剤であるフォトフリンよりも数倍高い活性が示された。この領域の光では、未修飾のフラーレンがほとんどPDT活性を示さないことから、フラーレン誘導体を用いる利点が明らかとなった。次にこの原因を調べるため、一重項酸素の発生量を比較した。その結果、カチオン性フラーレン誘導体が最もその発生量が多く、一方アミノ基を持つフラーレン誘導体では非常に少ない発生量となった。この原因はアミノ基のローンペアーによる光活性されたフラーレン誘導体の失活によることが示唆された。最後に細胞導入量を比較したところ、これもカチオン性フラーレン誘導体が最も大きな値を示した。この原因はアニオン性表面を持つがん細胞膜表面に静電相互作用して、その後の細胞内への導入がスムーズに進行したためであると考えられる。以上のように、カチオン性フラーレン誘導体が活性酸素産生量と細胞導入量がともに多いため、PDT活性が非常に高いことが示された。今後は、カチオン性部位の違いによる検討を行っていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初、フラーレン誘導体にすることによって、置換基に基板や細胞表面などの認識部位を導入しシクロデキストリン・フラーレン誘導体錯体の固定化のみを目標としてきた。しかし、実際にその錯体の光線力学活性を評価してみると、予想外なことに光線力学治療に適した600nm以上の波長の光で非常に高い活性を示すことが示された。この原因はまだ明らかではないが、今後様々な光材料として利用する上で大きな利点となる結果である。
今後は、より置換基の効果がでるように、シクロデキストリンの空孔かr離れた位置にカチオン性部位をもつフラーレン誘導体を合成し、sの光線力学活性を比較する。また、基板や金属ナノ粒子表面に固定化できるような置換基を導入し機能材料としても評価を行う予定である。
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