研究課題/領域番号 |
24655129
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
内藤 昌信 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (30346316)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | タバコモザイクウイルス / 円偏光発光 / ナノアレイ / リソグラフィー |
研究概要 |
円偏光レーザは、量子暗号通信に必要な円偏光光源、3次元ディスプレイなど、次々世代の光情報プロセッシングの主力として注目されている。中でも、可視光の波長と同程度のらせん周期構造を有するコレステリック液晶に色素を導入した液晶レーザは、液晶のらせん周期とらせん掌性に応じて、光の閉じ込めと増幅が起こり、円偏光のレーザを発振する。この液晶レーザをディスプレイに応用すれば、従来の液晶ディスプレイに比べて、色再現性や視野角特性がよく、優れた色彩表現が可能な究極のディスプレイが実現できる。 優れた加工性、波長可変性、フレキシブル性も、無機半導体レーザにはない大きなメリットである。この円偏光有機レーザを実用化するには、低エネルギーでの連続発振が不可避である。しかし、添加するレーザ色素の濃度を上げれば、自己消光や、液晶構造が崩壊するというジレンマがある。レイジング可能な色素濃度の上限はわずか 2%程度である。この問題を解決するため、本研究では円筒内部にレーザ色素を定量的に固定化したタバコモザイクウイルス( TMV )カプシドタンパク質の液晶を 創製し、有機円偏光レーザの連続発振を世界に先駆けて実現することを目指している。初年度では、TMV カプシドタンパク質の円筒内にレーザ色素を定量的に固定化する手法の確立とTMVの配向制御に関する研究を行った。特に、リソグラフィ技術で作製したナノパターン表面にTMVを一軸配向アレイ化することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タバコモザイクウイルス (TMV) は、同一のアミノ酸残基からなるサブユニットが、らせん状に一周あたり16.3個積み重なったチューブ構造を形成している。そのサブユニットの規則正しい配列を利用した機能性分子の精密・階層的配置制御や、外表面・内空間への金属ナノロッド生成反応等、近年ナノ構造作製のテンプレートとして様々な研究がなされている。一方、TMVのような剛直棒状分子は、ある一定のアスペクト比になると、濃度に依存して液晶性を示すことが知られており、例えばLinらはTMVの自己組織能を利用し、キャピラリーフォースを用いて一軸配向性を向上させる技術を提案している。これに対して、微細なリソグラフィパターンを自己組織化の足場とするアプローチは、より大面積かつ簡便な塗布法を利用できる優位性のみならず、パターンの形状や構成素材の性質により、発現する自己組織体の組織構造に特異性を見いだせる利点がある。 そこで本研究では、TMVの自己組織化の場として種々のリソグラフィ微細パターン基板を用い、パターン上におけるTMVの吸着挙動、組織性の発現を検討し、その配向メカニズムの解析を試みた。その結果、ラインの幅と間隔が等しいパターン基板を用いた場合、TMV溶液を凹凸パターン基板に塗布するだけで、凸ライン上に、ラインに対してほぼ垂直にTMVが自己組織化する現象を見出した。これは、TMVを光機能素子として用いる際の大面積化・塗布化などの問題を克服する手法として非常に重要な知見であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に得られたナノパターン表面上でのTMV自己組織化配向アレイに関する知見を元に、最終年度では、TMVナノアレイへの色素固定化並びにその光化学特性について詳細に検討する。具体的には、下記の課題に取り組む。 (1)TMV内部へのレーザ色素の固定化手法の確立 (2)TMV内部に固定化されたレーザ色素の円偏光発光特性 (3)TMVナノアレイからのレイジング特性評価
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度となる本年度は、研究をより加速するため、TMVの精製等のルーティンワークについては研究補助員を雇用することで、光機能特性に関する知見の収集に専念する。そのため、人件費への支出配分を増額する。
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