本研究課題の目的は、強誘電性を有する液晶性半導体を合成し、自発分極により発生した内部電界に由来する異常光起電力効果を観測することである。 昨年度は、側鎖末端に官能基導入部位である二重結合を有する液晶性フェニルターチオフェン誘導体を合成し、その液晶性、強誘電性、ホール輸送性について検討した。この液晶材料は強誘電相であるキラルスメクティックC相を示し、100 nC/cm2の自発分極を示し、ホール移動度は3×10-4 cm2/Vsであった。しかし、外部電場0の状態では自発分極が急速に緩和するため、異常光起電力効果を観測するに至らなかった。 本年度は、自発分去いくの緩和の抑制を狙い、側鎖末端にオリゴシロキサン部位を導入したフェニルターチオフェン誘導体を合成した。ペンタメチルジシロキサン鎖とヘプタメチルシクロテトラシロキサン環を導入したフェニルターチオフェン誘導体を合成した。いずれの化合物も100℃付近でキラルスメクティックC相を示した。特に、後者は過去に例のない、環状の部位を側鎖にもつ特徴的な構造を有している。自発分極が135 nC/cm2に達し、ホール移動度も1×10-4 cm2/Vsと良好な値を示した。キラルスメクティックC相において、外部電界0において、微弱な光電流が観測された。異常光起電力効果に由来するものと考えられる。現在、光電流の起源について詳細な検討を行っている。また、この化合物はスピンコート法によって液晶性薄膜の作製が可能であり、薄膜をトリフルオロメタンスルホン酸蒸気にさらすことにより、液晶相の分子凝集構造を保持したまま開環重合が進行し、薄膜を固定化することができた。液晶相でのin situ重合が可能なポリシロキサンは過去に例がなく、注目すべきである。現在、薄膜状態での強誘電性、ホール輸送性、異常光起電力効果の検討を行っている。
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