フェノールは樹脂原料として工業的に必要不可欠であり、さらに医農薬、抗酸化剤、染料など、多くの分野で利用される最も重要な工業原料の1つである。現在、フェノールはベンゼンを原料とするクメン法によってその多くが製造されている。しかしながらクメン法は、①多段階(3段階)反応、②過酸化物中間体を経由、③濃硫酸の使用、④低収率、⑤低エネルギー効率、⑥アセトンの副生など、環境調和型プロセスを指向する上で多くの課題を有している。これに対し、本研究では水中および水存在下におけるベンゼンの電解酸化によって“一旦”生成するフェノールをその場で分離する手法を開発し、ベンゼンと水から直接フェノールを合成することを目的とした。本目的を達成するために、平成25年度は以下の検討を行った。 (1)親水性水酸基を有するフェノールと疎水性PTFEの反発作用に基づくフェノールの電気二重層からの分離 平成24年度の研究において、親水性水酸基を有するフェノールと疎水性PTFE間に反発作用が働くこと(原理的妥当性)は確認されていたが、それをマクロ電解に応用することは困難であることが明らかになった。 (2)HFIP中でのベンゼンの電解酸化 ベンゼンの酸化電位は比較的高いため、ベンゼンの酸化を優先して進行させるために耐酸化性の溶媒であるHFIP中でベンゼンの電解酸化について検討を行った。その結果、水存在下においてもベンゼンの電解酸化がスムーズに進行するものの、対応するフェノールは生成せず、電極表面にポリフェニレンが生成することが明らかになった。
|