研究課題/領域番号 |
24655146
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
後藤 佑樹 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70570604)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ペプチド / 人工酵素 / 試験管内分子進化 |
研究概要 |
本研究では、純科学的・工学的、両方の観点から高い意義を持つ、自己切断型の新規人工ペプチダーゼ(プロテアーゼ)の創成を目指している。これまでに、人工の新規プロテアーゼドメインをde novoに作成する試みは多くなされているものの、成功した事例は全く存在しない。本研究では、ランダムペプチドライブラリーから自己切断活性を持つ配列を試験管内で人工進化させる、潜在的に切断されやすいことが期待されるCys-Pro配列を活用する、といった独自の工夫を施すことで、新規人工触媒ドメインの発見が可能であると考えた。 本研究で創成を目指すペプチダーゼは、以下の特筆すべき特色を併せ持つ。(1)ペプチド切断活性に必要なドメインの全長が、20-40残基程度の「超小型人工ペプチダーゼ」である、(2)自身のN末端側を切断するcis活性型である、(3)触媒ドメインのN末端に位置するCys-Proの前で正確に切断され、切断産物の末端構造が均一である、(4)特定の外部刺激(pH変化・金属イオンの添加)により、その切断活性のON/OFFを制御できる。本研究が完成すれば、「天然由来の配列に頼らず、人工のペプチダーゼをde novoに創成できうるか?」、「安定なアミド結合の切断を、どれだけ小さなドメインで行うことができるか?」といった命題に知見を与えられることから、学術的な意義は非常に高い。また、工学的な応用の面からは、組換えタンパク質の精製への応用が期待される。 当該年度においては、ランダム領域を含むmRNAライブラリー(1兆種類以上)を用意し、申請者が以前に開発した翻訳開始反応のリプログラミング法を用いて、20-40残基程度の短いランダムペプチドライブラリーを合成した。さらに、この中から目的のペプチド切断活性を有する配列を同定するのに用いる試験管内分子進化の系の最適化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、酸性条件下で活性がONになり、自己切断反応を引き起こす超小型ペプチダーゼを探索するための試験管内分子進化の系を最適化した。 本実験系では、配列中にCys-ProをコードするUGU-CCG、及びそれに引き続くランダム配列領域(NNK)20を、C末端にFlagペプチドをコードした配列を含む、ランダムmRNAライブラリーを用意する。このライブラリーをピューロマイシンを含むDNAリンカーと連結した後、試験管内翻訳系を利用し、ペプチドライブラリーを翻訳合成する。この時、ビオチン化された開始残基で翻訳開始反応をリプログラムすることで、ペプチド産物のN末端をビオチンラベルでき、またmRNAに付加されたピューロマイシンの働きにより、翻訳産物はその配列情報をコードしたmRNA分子 でタグ付けできる。合成されたペプチドライブラリーを、アビジンビーズにより精製後、pH5.0の緩衝液を加える。この操作により、もし目的のペプチド種が存在すれば酵素活性がONになり、ペプチド切断反応が進行することが期待される。切断により生じたmRNAでタグ付けされたC末端側断片は、Flag抗体固定化レジンで上清より回収する。その後、回収した配列をPCRによる増幅、試験管内転写反応により、再びmRNAライブラリーに変換する。ここで得られるmRNAライブラリーは、スタート時と比べ、よりペプチダーゼ活性の高い配列をコードした集団へと変化している。この一連のサイクルを繰り返すことで、高い自己切断活性を持つペプチド配列をコードしたcDNAが、最終的に濃縮される。 今年度はモデルmRNAを用いた小スケールの実験により、上記多段階の生化学反応が試験管内で問題なく進行することを確認した。また、回収したペプチドの絶対量をリアルタイムPCRにより決定し、各サイクルにおける活性種の割合をモニタリングする方法論も確立した。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度において、モデルmRNAを用いた確立した実験系を利用し、実際に大規模mRNAライブラリーからの分子進化を行う。上記の通り、まずはpH5など酸性条件下で活性がONとなる超小型ペプチダーゼの取得を目指すが、本研究の高い挑戦性のため、目的の活性をもつペプチド種が得られない可能性もあり得る。その場合は、酸性条件下の 代わりに金属イオンを活性のトリガーとした分子進化や、他の活性を持つ超小型ペプチド酵素の取得も見据えた研究を展開する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
ペプチドライブラリーの鋳型となるmRNAライブラリーの合成・無細胞翻訳系の調整・PCR反応・T7転写反応・翻訳反応などの生化学実験を行うため、酵素やDNAプライマーを始めとした薬品類・消耗実験器具にかかる消耗品経費を計上している。 また、研究に携わる学生1名に実験補助業務を依頼し、謝金を支払うため、謝金費用も計上している。研究成果は積極的に国内外の学会に参加し、報告する予定であるため、これに必要な旅費を計上した。
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