研究課題
単核や二核鉄タンパク質において近傍の芳香族アミノ酸残基が酸化され、カテコールなどが発生する酸化的自己 修飾が報告されている。また、天然の場合でも酸化的自己修飾によって巧みに特殊なアミノ酸残基を形成させている鉄および銅含有酸化還元酵素が存在している。そこで本研究では、酸化的自己修飾反応を人工的に引き起こし、新規な架橋構造やクロモフォアの形成を実現することを目的とした。3つおよび4つのヒスチジンが配位した結合サイトを持つ、キュピン型金属結合タンパク質を用い、金属近傍のイソロイシン49やトリプトファン56にチロシンを導入したところ,鉄と銅それぞれにおいて明らかな紫外可視吸収スペクトルの変化が見られた。特に前者の場合,鉄結合型では吸収極大が800nm以上といった近赤外部に見られるような天然にはないクロモフォアが形成された。MALDI-TOF/MS分析や共鳴ラマンスペクトル測定、結晶構造解析を用いて詳細に特性評価を行ったところ、導入したチロシンがドーパとなり、鉄に配位した金属中心が形成されていた。一方で銅の場合は紫外部にキノンと考えられる吸収が観測された。また、これらの形成には酸素分子の寄与が必要であることを明らかとした。このように本年度は人工的な補因子創成の第一歩として天然のタンパク質には見られたことのないいくつかの特殊なアミノ酸残基の合成に成功し、その詳細な特性評価と反応機構の一部を明らかとした。
2: おおむね順調に進展している
近年、種々の酵素活性中心近傍でアミノ酸側鎖が翻訳後化学修飾を受けて生起した架橋構造や補欠分子が発見され、金属-活性酸素種がそれらの形成を誘起している可能性が示唆され始めている。本研究では、モデルタンパク質の活性中心で金属-活性酸素種による酸化的自己修飾の詳細な反応機構解明と、それに基づいた反応性の制御により、翻訳後化学修飾を誘起して新たなクロモフォア、フルオロフォア、そして酸化 還元補酵素を持った人工タンパク質の創成を行うことを目的としている。今年度は3つおよび4つのヒスチジンが配位した結合サイトを持つ、キュピン型金属結合タンパク質を用い、金属近傍のイソロイシン49やトリプトファン56にチロシンを導入したところ,鉄中心において吸収極大が800nm以上といった近赤外部に見られるような天然にはないクロモフォアが形成された。さらに反応過程を検討したところ、酸素が必要であることが明らかとなり,その形成には鉄オキソ活性種の関連が示唆された。今後、この形成過程を結晶学的に検討することでその反応過程の詳細を明らかにできると期待される。また、天然のタンパク質には見られたことのないクロモフォアの形成が達成された。これらは、今後、形成過程を検討し、近傍に新たな変異を導入することでより、特殊な架橋構造や補欠分子属を生合成していくことが可能になると期待される結果である。
昨年度に続き、変異体の調製とスクリーニングと特性評価を行い、前年度の情報を議論し、酸化的自己修飾の詳細な反応機構を総括する。その後、それに基づいた反応性の制御により、翻訳後化学修飾を誘起して新たなクロモフォア、フルオロフォア、そして酸化還元補酵素を持った人工タンパク質の創成を行う。本年度で得られたドーパやキノンの近傍にCys, Lys, Tyr, Hisなどの求核性アミノ酸を導入した変異体を作製し、架橋構造形成の有無を確認する。この段階で形成が見られた場合、紫外可視吸収スペクトルやラマン分光法、フィンガーマスプリンティングなどで詳細な特性評価を行う。さらに結晶構造解析を用いてそれらの形成過程についての解明を目指す。以上の結果で予想外の反応経路が推測された場合は、適宜導入するアミノ酸を変え、柔軟に対応する。求核性以外のアミノ酸残基とのカップリングを視野に入れ,多種多様な新規アミノ酸のタンパク質内自己合成を目指し,様々な金属配位サイトや金属の結合をスクリーニングするため、国内外の研究者との共同研究も計画している。そして、最後に生成したアミノ酸補欠分子属の総括を行う。こうして、作製した特殊なアミノ酸残基を用いて電極との共役による新規バイオエレクトロニクスデバイスや多電子移動反応を触媒する人工金属酵素の創成を目指し,様々な特性評価や利用方法の展開を行っていく予定である。
①設備備品費:必要な備品はほぼそろっているため除外した。②消耗品費:生化学材料(制限酵素、遺伝子増幅用酵素、核酸精製用試薬、タンパク質調整用試薬)、クロマト材料(逆相カラム、イオン交換樹脂、ゲルろ過担体、アフィニティークロマト用樹脂)、ガラス器具などの経費はこれまでの研究における使用実績と同様の利用を計画している。③旅費:本研究のための研究打ち合わせ/および研究者派遣用旅費(共同研究を含む)および成果報告旅費を国内外旅費として計上した。また、世界的にイニシアチブをとるためにも、海外での成果発表は極めて重要であると位置づけているので、欧米での国際会議出席用旅費とし海外旅費を計上した。④謝金:本研究を円滑に進捗させるため実験補助の人件費を計上した。⑤その他:高いレベルの雑誌に投稿し、成果を広く世界に発信することは極めて重要であるため、各年度で必要十分な投稿料を計上した。
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J. Biol. Inorg. Chem.
巻: 18 ページ: 19-26
10.1007/s00775-012-0945-5