研究課題/領域番号 |
24655158
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
一二三 恵美 大分大学, 学内共同利用施設等, 教授 (90254606)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | BBB / ナノ抗体 / がん細胞傷害性 |
研究概要 |
1, ヒト型ナノ抗体ライブラリーの作製:狂犬病ワクチン接種健常人ボランティア由来のリンパ球からRNAを抽出してcDNAを合成した。これを鋳型としてV geneがSubgroup IIに分類されるkappa型軽鎖全長遺伝子をクローニングした。この遺伝子を選んだ理由は、これまで実施してきた抗体軽鎖タンパクの生物学的性質に係わる検討で、軽鎖単独でがん細胞傷害性を示すクローンを得ているためである。BBBを通過した後の効果が期待出来る遺伝子群を選んだ。 2, ナノ抗体の大腸菌での発現系の構築:クローニングした遺伝子を培地への発現が可能とされるpIgベクターとペリプラズム発現用のpET20b(+)ベクターに組み換えて小スケール発現を行い、発現パターンを比較した。当初はpIgベクターを用いる計画であったが期待した培地への発現は殆ど認められなかった。また、菌体中の発現パターンはpET20b(+)ベクターとほぼ同じであり、特に可溶性画分への発現が増えている様子も認められなかった。pIgベクターではprotein A-tagを付加して発現され、これを取り外す作業が必要になることから、本研究ではpET20b(+)ベクターに変更することとした。 3, ナノ抗体の発現と精製:pET20b(+)ベクターに組み込んだナノ抗体遺伝子の大腸菌BL21(DE3)pLys Sにより発現し、半自動タンパク質精製装置Maxwell 16による精製を開始した。しかしながら、半自動精製装置によるナノ抗体収量はカタログ記載値の1/3~1/10程度であり、量・質ともに評価試験に用いるには不十分であった。そこで発現を1 Lスケールに増やし、精製方法もNi-NTA(QIAGEN)カラムクロマトグラフィーとSP5PWカラム(TOSOH)を用いる陽イオン交換クロマトグラフィーによる精製に変更した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度計画の柱は、ヒト型ナノ抗体ライブラリーの作製と効率的な発現・精製系の構築であった。まずライブラリー作製では、クローニングしたナノ抗体遺伝子数の観点からは順調に進んでいるが、希にLB plateへ画線した菌体がライン状に増え始めたところで増殖が極端に落ちるものや、プラスミド抽出過程でプラスミドが分解してしまうものがあった。現在クローニングしているナノ抗体は、抗原(タンパクや核酸)を分解する酵素活性を有している可能性があるので、これらのクローンも無視出来ない。本年度は、再実験により上述の現象がクローンの特徴であることまでは確認した。まずは順調にクローニング出来たナノ抗体のスクリーニングを進めた後に、原因を追及する計画である。 ナノ抗体の発現は、pIgベクターでは培地への発現量が少なく、当初計画からpET20b(+)ベクターを用いる方法に変更した。しかし、変更後の発現については問題なく進行しており目立った遅れは生じていない。また、Maxwell 16を用いる精製についても、ナノ抗体については説明書記載の成績を得ることは困難と判断し、Ni-NTAカラムクロマトグラフィーと陽イオン交換クロマトグラフィーの併用へと方針を転換した。当初計画よりも精製操作に要す時間は長くなったが、透析や濃縮操作はカラムクロマト精製の場合と同様に必要となるため、全体としてはそれ程大きく遅れることは無かった。むしろ、高純度のナノ抗体を十分量得られるので、種々の検討を進めやすいという利点があった。 以上のことから、本年度の計画は概ね良好に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1, 平成25年度の計画 (1)発現・精製:平成24年度にクローニングしたナノ抗体遺伝子の1 Lスケールでの発現と高純度精製を進める。この時、さまざまな配列のものの処理を出来るだけ均等に進める。具体的には、ナノ抗体可変領域のアミノ酸配列を使ってV geneの相同性解析を行い、各ナノ抗体のV geneを分類する。次にVk germline geneとの比較で体細胞変異の入っている場所を整理し、まずは変異が少なくVk germleine geneに近い配列のナノ抗体から発現・精製を行う。一通りの精製が終わると、今度はVk germline geneとの相同性の低い、即ち体細胞変異の数の多いクローンを精製する。これらについて後述のBBB透過性試験などの評価試験を行い、特徴ある性質を示すナノ抗体遺伝子の特徴を見きわめる。これ以降の発現・精製は、特徴あるナノ抗体と同じV geneを持つクローンや、近い体細胞変異を伴うクローンを中心に進める。 (2)BBB透過性試験:前項の精製の進捗状況に合わせてBBB透過性試験の準備に取りかかる。 (株)ファーマコセルのBBB透過性試験キットを用いる予定であるが、本キットの使用に伴い血管側から脳側に以降したナノ抗体の検出系を用意する必要があり、酵素免疫測定法による検出を計画している。事前に用いる抗体の組み合わせや検出感度などを調べ、高感度の微量分析系を用意する。 (3)バイオアッセイ:精製したナノ抗体については、WST assayにより抗腫瘍活性も調べる。 2, 平成26年度:平成25年度の検討をさらに進めるが、平成25年度までにBBB透過性を示すクローンが得られない場合には、バイオアッセイで抗腫瘍活性を示したクローンのC末端に遺伝子工学的手法でインシュリンを付加させ、脳血管内上皮細胞に発現しているインシュリンレセプターを介したBBB透過を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品費:設備備品の購入は計画していない。 消耗品費:平成25年度の予算の大半は以下の消耗品購入に充てる計画である。具体的には、ナノ抗体発現から精製、BBB透過性やがん細胞傷害性試験までの一連の過程で必要となる試薬類(BBB透過性試験用キットを含む)や樹脂性のディスポーザブル器具類、精製用カラムなどの消耗品の購入に使用する。 人件費・謝金:BBB透過性試験の準備時期には一次的に作業量の増大が予想されるため、アルバイトを雇用してデータの取り纏めなどの作業の効率化を図る。 国内旅費:平成24年度からの成果を国内の学会で発表するための旅費として使用する。
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