研究課題/領域番号 |
24655159
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東北工業大学 |
研究代表者 |
多田 美香 東北工業大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (90375189)
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研究分担者 |
伊藤 智博 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (60361276)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | melanin / tyrosinase / free radical / redox / hydroxyl radical / ESR / spin trapping / oxygenase |
研究概要 |
黒色メラニンは紫外線を吸収することで皮膚の老化や重篤な疾病を抑制することが知られている.このような背景から,メラニンの生理機能における疫学的・分子生物学的な研究は盛んであるが,酸化還元(レドックス)反応や電子移動に着目した複合化学の観点からのアプローチは少ない.一方,過剰なメラニン形成が酸化ストレスや親電子性ストレスを増悪させ,DNA損傷などのリスクを高める可能性は否めない.H24年度計画研究では,メラニン形成に至るまでの化学反応に着目し,フリーラジカルの生成・消去系が存在するレドックス反応とメラニン形成機構の関連性を検証した.特に,分子状酸素を用いてチロシンからドーパへの水酸化反応,ドーパキノンへの酸化反応を触媒するチロシナーゼに着目し,電子スピン共鳴(ESR)‐スピントラップ法によってフリーラジカルの定性・定量分析を行った. チロシナーゼ反応45秒以内に,ヒドロキシルラジカルとHのスピンアダクト;DMPO-OH(aN=1.49 mT;aH=1.49 mT)とDMPO-H(aN=1.63 mT;aH=2.25 mT)が検出された.酵素反応の基質をチロシンからL-DOPAに変えることでDMPO-OHの信号は顕著に増大した(約2倍).ESRオキシメトリーによって,チロシンおよびL-DOPAとチロシナーゼの反応45秒後の溶存酸素濃度は数十μMまで減少することが示されたが,基質の違いによる酸素消費の差異は認められなかった.DMPO-OH生成抑制に対するスーパーオキシドジスムターゼ,カタラーゼの影響は,それぞれ15%以下(スピンアダクトの測定誤差±5%程度)であった. メラニン形成の律速酵素のチロシナーゼ反応において,生成したヒドロキシルラジカルは遊離したスーパーオキシドや過酸化水素の連鎖反応ではなく,チロシナーゼ反応中間体の形成過程で放出されていることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H24年度の研究実施計画では,メラニン形成過程のような生理条件下で短寿命な酸素ラジカルやHを検出することは極めて困難なので,スピントラップ剤(DMPOなど)で安定化したスピンアダクトをESRで検出するESR-スピントラップ法によってラジカル種の定性・定量分析を目標とした.同時に,メラニン形成反応の律速酵素であるチロシナーゼ反応において,フリーラジカル生成量と酸素消費量を同条件で測定することを計画していた.研究実績に記したように,チロシン‐チロシナーゼ反応,およびドーパ‐チロシナーゼ反応の2経路において,ヒドロキシルラジカルとHが生成することを証明した.ヒドロキシルラジカルの生成量には,基質濃度依存性およびチロシナーゼ濃度依存性が認められていることから,水酸化反応,またはドーパキノンへの酸化反応過程でヒドロキシルラジカルが生成していると想定している.研究成果は,Society for Free Radical Research International 16th Biennial Meeting (SFRRI 2012,sep.6-9,Title; A study on the radical generation through the process of melanin synthesis)で発表し,YIAを受賞した. H24年度には計画していなかった微弱発光計測法による活性分子種の計測を試みた.チロシナーゼ反応過程では一重項酸素由来の燐光(633 nm)は検出されなかった.一方,形成後のメラニンについて,反応条件を可変することによって励起活性分子種に由来する微弱発光の検出に成功している. 研究分担者と学内の連携研究者らの協力によって,山形大学から東北工業大学へのESR装置の移設を完了した. このようなことから,H24年度計画以上に進展していると評価している.
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今後の研究の推進方策 |
H24年度の成果から,生理条件下のメラニン形成の律速酵素であるチロシナーゼ反応系において,発ガン性リスクを高める可能性としてヒドロキシルラジカル生成が想定された.ただし,正常(生理条件)な反応条件でのヒドロキシルラジカルの生成量は,1分間に1μM程度であることから,生体内の活性酸素濃度(μMオーダー)の範囲に留まっている.すなわち,ガンなどの重篤なレドックス疾病原因の一つである脂質過酸化,DNA損傷(酸化ストレス)を引き起こすためには,ヒドロキシルラジカルとターゲットまでの距離(反応場)が重要になる.生体内には,抗酸化酵素群や抗酸化物質が存在しており,生成したヒドロキシルラジカルを速やかに消失することができれば酸化ストレスを予防できる.また,外因性の薬剤や機能性物質によってヒドロキシルラジカル生成量および生成速度をコントロールできれば,発ガン性リスクを低減することができる.このようなことから,H25年度は,チロシナーゼ反応系でのヒドロキシルラジカル低減効果の薬剤・機能性物質のスクリーニングを行う.低減効果の作用機序を明確にし,酸化ストレスに至る反応経路も考察する. 次に,形成後の黒色メラニン由来の活性種(フリーラジカルを含む)について検討する.この実験系は,表皮に滞留するメラニン(例えばケラチノサイト)に分布している条件に近づけるため,不均一にメラニンが分布している条件で活性種を検出しなければならない.そこで,H24年度に試みた微弱発光計測とESR計測データの両面解析を行い,チロシナーゼ反応系以外で生成する活性種と発ガン性リスクへの影響を議論する. H26年度9月までに,メラニンを合成する皮膚細胞(メラノサイトやメラノーマなど)と活性種のin situ計測を実施したい.培養細胞や酸化ストレスマーカーの選定は,H25年度までの実験データを参考にする.
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次年度の研究費の使用計画 |
チロシナーゼ反応に必要な試薬.酸化ストレス評価試薬・機器(薬剤,機能性物質). ESRスピン試薬.ESR計測関連消耗品.培養細胞関連消耗品.データ解析用PC関連機器.学会出張費.図書.論文校正・印刷費.
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