研究課題/領域番号 |
24655159
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研究機関 | 東北工業大学 |
研究代表者 |
多田 美香 東北工業大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (90375189)
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研究分担者 |
伊藤 智博 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (60361276)
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キーワード | メラニン / 酸化ストレス / 抗酸化 / リノール酸 / L-ドーパ / ポリフェノール / チロシナーゼ / チロシナーゼ阻害剤 |
研究概要 |
ESRスピントラップ計測法によって,チロシナーゼの基質をL-ドーパにした場合,酵素反応1分値において酸化力の強いヒドロキシルラジカル(・OH)の生成量がチロシンを基質にした時よりも2倍以上増加する反応条件を見つけた。また,チロシナーゼはポリフェノールオキシダーゼとしても作用する。化粧料やサプリメントに含まれているポリフェノールの過剰摂取が環境ストレス因子となりうる可能性を見出すために,数種のポリフェノールを基質としてチロシナーゼ反応を観察した。興味深い結果として,カテキン由来のカーボンセンターラジカルを捉えたが,現段階では発ガン性リスクを高めるような活性分子種は・OHと判断した。 視点をかえて,形成後の黒色メラニンと酸化ストレスについての関連性を検討した。皮膚の抗炎症作用をもつリノール酸は,酸化に対する安定性が悪いため,皮膚保護剤として利用することは難しい。そこで,リノール酸の自動酸化をストレス因子ととらえ,メラニン色素とリノール酸の混合物を生体疑似物質のモデルとして実験に用いた。自動酸化反応物は,PerkinElmer Co., Ltd.のご協力を得て,AxION Direct SampleAnalysis (DSA/TOF)での定量・定性分析を試みた。リノール酸とメラニン色素の混合物を分離せずにポジティブモードで分析した。リノール酸のみのマススペクトルは,加温時間に依存してリノール酸モノマー由来の[M+H] m/z 560.49のピーク強度が顕著に変化した。一方,メラニンとリノール酸混合物のマススペクトルから,リノール酸の加温による分解をメラニンが抑制するような傾向がみつかった。我々は黒色メラニンの抗酸化能を報告している(Tada M, et.al.,Y.J Clin Biochem Nutr. 2010 May;46:224-8)。メラニン形成初期反応に伴う・OH生成量と形成後に抗酸化作用を有するメラニン量のバランスが崩れると,酸化的損傷につながり発ガン性リスクをアップさせることが想定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本計画研究は,メラニン形成機構,またはメラニン自体の生理作用が異常になると,本来の生体防御を担うメラニンが酸化ストレス因子となり,脂質過酸化やDNA損傷を引き起こし,発ガン性リスクを高めることを想定して計画した研究である。これまでの検討から,メラニン初期反応のチロシン-チロシナーゼ反応およびドーパ-チロシナーゼ反応に伴って生成するヒドロキシルラジカル(・OH)が酸化ストレス因子の候補としているが,・OHの存在場によってフリーラジカルの連鎖反応を引き起こす確率が変わってくる。そこで,脂質過酸化反応とメラニン量との関係を検討するべきと考え,当初の計画とは異なる実験系を試験的に実施したことが計画研究の遅れを生じた理由のひとつである。H25年度の学内業務(大学運営,教育,入試広報,等)が当初の計画よりも増えてしまい,研究への時間配分が少なくなってしまった。また,H25年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 生体酸化ストレス非侵襲画像計測技術の研究(大学の特色を活かした研究)が採択され,戦略プロジェクトの主要メンバーとして研究設備の導入を担当し,学内の実験環境の整備などに時間が必要だった。本計画研究に配分するべき研究期間の一部が戦略プロジェクトの準備期間になり,実験場所の確保ができなかった。しかしながら,H24年度の計画研究はおおむね順調に進んでいたので,H26年度に予定どおりの研究時間を確保すれば,H25年度の遅れは取り戻せる範囲である。 X-band ESR装置による計測は,協力研究者の庭野教授が運営している東北大学歯学部で行っている。学内にも古いタイプのESR装置(日本電子性FR30)はあるが,装置感度や操作性,質が良く再現性の高いデータを取得するにはFR30の性能では不十分なことが多かった。H25年度は東北大学歯学部での実験に制限があったが,H26年度は大学にご理解をいただき,東北大学歯学部での実験回数を増やしていく。
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今後の研究の推進方策 |
リノール酸の酸化度合とメラニンの作用に着目したことは,今後の研究にプラスに働くことを期待している。DSA/TOFは,夾雑物を含むサンプルを分離することなく直接分析ができるため,劣化しやすいサンプルや未反応サンプル,反応直後のサンプルの質量分析に有効である。また,ESI法でイオン化しにくい非極性成分(疎水性成分)の分析にもDSAは適している。本研究では,リノール酸のように疎水性で空気中の酸素に触れると直ちに酸化反応が開始するような反応性の高い不飽和脂肪酸とメラニン色素の混合物を分離せずに分析し,酸化度合に及ぼすメラニンの影響を検証したい。DSA/TOFでの1回の測定に必要なサンプル量は10μL以下でメンテナンスも比較的容易であるため,実験前後の時間を短縮できる利点もある。しかしながら,DSA/TOFでの脂質過酸化に関する報告例が少ない。今後は,脂質過酸化の反応中間体(マロンジアルデヒドなど)やリノール酸重合体などの酸化物にターゲットを絞り,市販のエライザキットなどと併用して追加検討を試みる。 H25年度中に戦略プロジェクトの予算で細胞培養室が整備された。H26年度はin situでの酸化ストレス因子とメラニン色素の形成と関連性を検討したい。
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