研究課題/領域番号 |
24655160
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
宮本 憲二 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (60360111)
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研究分担者 |
吉田 昭介 慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (80610766)
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キーワード | 熱駆動型反応 / エステラーゼ / 好熱性酵素 |
研究概要 |
本申請では、超好熱性酵素の活性部位を「熱に強い不斉な空間」ととらえる。そして、本来その酵素の基質ではないが、活性部位に結合する様な化合物をデザインし、不斉空間を反応場として様々な熱駆動型反応を実現することを目的としている。 具体的には、超好熱性エステラーゼの基質にはならないが、活性部位に結合するような化合物を用意する。そして、活性部位内へのバインディングと、触媒残基との相互作用によりある程度の活性化を行う。しかし、このままでは反応は起こらないので、超好熱性酵素の構造が保たれる温度である90℃程度まで加熱し、反応を誘発する。 我々は既に、アリールメチルマロン酸ジエステルに高温条件で好熱性エステラーゼを作用させることにより、自発的脱炭酸反応を経由し、アリールプロピオン酸を生成する不斉ドミノ型反応を達成している。このドミノ型反応では、最初にマロン酸ジエステルの立体選択的加水分解反応起こり、ハーフエステルが生成する。次いで、活性部位内でハーフエステルの熱駆動型脱炭酸反応が起こる。最後に生成したエステルがエステラーゼによって加水分解されて光学活性なカルボン酸が生成する。そこで、加水分解活性の消失したエステラーゼを作成し、高温条件下でハーフエステルに作用させると酵素の活性部位内で脱炭酸反応だけを行わせることができるのでは無いかと考えた。まず、この化合物と酵素をモデルとして、熱駆動型反応を実現する。そして、酵素を用いる熱駆動型ベックマン転位反応等への応用展開を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は既に、マロン酸ジエステルに高温条件で好熱性エステラーゼを作用させることにより、自発的脱炭酸反応を経由する不斉ドミノ型反応を達成している。しかし、その生成物の光学純度は40%e.e.程度と低いものであった。そこでまず、活性部位周辺に変異を導入したライブラリーを構築し、その中から選択性の向上した変異体をスクリーニングしたところ、野生型より選択性が大幅に向上(66~80%e.e.)した6変異体(A179M/L198Y、A179M/L198E、I203R、A179K、I203E、A179M/L198S)を得ることに成功した。この成果は、Tetrahedron Lettersに投稿・受理された。次に、立体選択性が向上した変異体と野生型に対して変異を導入し、エステルの加水分解活性が消失した変異体を作成した。具体的には、加水分解に必要不可欠な残基であるAsp、His、SerをそれぞれAlaに置換した変異体を作成した。そして、これらの変異体を別途合成したマロン酸のハーフエステルに高温条件で作用させたところ、脱炭酸だけが進行したα―アリールプロピオン酸エステルを得ることに成功した。しかし、生成物の光学純度を測定したところ、ほぼラセミであった。そこで、野生型酵素の反応条件を検討し、プロピオン酸エステルが得られる条件を設定した。そして、生成物の光学純度を測定したところ、70%e.e.程度の光学活性体であった。したがって、当初の予想通り、ハーフエステルの熱駆動型脱炭酸反応が立体選択的な反応であることを明らかとした。 好熱性エステラーゼやラセマーゼをクローニングし、シクロヘキサノンオキシムを作用させて加熱し、ベックマン転位を試みた。しかし、目的とする転移生成物であるラクタムを確認することはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
エステラーゼの触媒残基であるAsp、His、SerをAlaに置換した変異体では、脱炭酸反応は進行するものの、立体選択的な反応では無いことがわかった。そこで、Serが脱炭酸反応により生成したエノール型の中間体に対してプロトン供与を行っていることが示唆された。そこで、加水分解活性は無いがプロトン供与能は高いと期待できるSerをCysに置換した変異体を作成し、熱駆動型脱炭酸反応を試みる。また、以前の検討から活性残基以外に変異が導入されているが、加水分解活性が消失した変異体を複数所有している。そこで、これらの変異体を用いてエステラーゼによる熱駆動型脱炭酸反応を実現する。 マロン酸時エステルの他に新たな基質として、ケトエステルをデザインした。これにエステラーゼを作用させたところ、エステルの加水分解と自発的な脱炭酸反応により、光学活性なケトンが生成していることを確認した。この反応は新規な光学活性ケトンの合成法として有用と考えられるので、条件の最適化や各種基質の合成を行い、その有用性を明らかとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
ほぼ予定通りであった。 本年度は、エステラーゼの活性を消失するための変異導入やシークエンスでの確認を行う必要がある。また、成果発表のための国内出張料費が必要である。
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