研究概要 |
本提案技術の特徴は、鉄酸化細菌の昇圧デバイス能力を用いることで、現状では2V以上もの大きな外部電源を必要としていた電気化学的CO2固定プロセスに対して、僅か400 mV程度の小さな電圧で反応を駆動させる点にある。その実証に向けては、鉄酸化細菌が電気エネルギーを用いてCO2固定を行えるか否かを明らかにし、かつ、高効率な水の酸化触媒の開発が不可欠である。そこで本研究では、深海底におけるバイオマス生産を担っていると予測されている中性鉄酸化細菌の一種Mariprofundus ferrooxidansを用い、電気化学培養後の電極表面を7種の多糖染色試薬により観察し、CO2固定産物の特定を試みた。7種類のレクチン(WGA, RCA, ConA, UEA, DBA, SBA, PNA)を用いた結果、UEAにおいて最も強い蛍光が観測された。よって、M. ferrooxidansは電気エネルギーを一次エネルギー源としてα-L-fucose, β-D-galactose, β-D-N-acetyl glucosamineを含む多糖を合成していることが明らかとなった。さらに本研究では、植物がPSII中心で行っている酸素発生反応に着目し、窒素を含有させた新規マンガン系触媒の開発を進めてきた。窒素配位子の導入による酸化マンガンの電子状態を制御、ならびにプロトン共役電子移動誘起剤であるアミン系化合物を添加することによって中性pH領域で高い活性を示す酸素発生触媒の開発に成功した。深海底に生息する鉄酸化細菌M. ferrooxydansが、外界から獲得した電子のエネルギーを0.95 eVも高める昇圧デバイスとして働くこと、そして中性pH駆動型の新規なマンガン系酸素発生触媒の開発は、本提案の鉄イオンをエネルギーキャリアーとした低電圧CO2固定が可能であることを示すものである。
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