研究課題/領域番号 |
24655173
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
堀田 収 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 教授 (00360743)
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キーワード | 浮遊ゲート / 金属酸化物半導体 / 電子注入極 / ホール注入極 / 発光トランジスタ / 移動度 |
研究概要 |
有機半導体薄膜と金属酸化物半導体薄膜とからなる浮遊ゲート発光トランジスタのプロトタイプ構築を目的として研究を進めた。金属酸化物半導体薄膜として、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)を用いた。 当年度は、有機半導体の蒸着膜(アモルファス膜)と結晶膜を用い、これらをAZOと積層してデバイス特性を調べた。この結果、(i)蒸着膜の場合、比較的低電圧(~10 V)でデバイスが発光する。有機半導体材料の違いによって、主要な発光が電子注入側およびホール注入側で起こるという発光形態の相違が観察された。発光場所の違いが何に起因するかを観察するために、パーティションで電子注入極とホール注入極を仕切って両種の電極材料が混合しないように工夫した。この工夫が発光場所にどのように影響するか、現在、より数多くのデバイスを作製してデータを蓄積しつつある。 (ii)一方、結晶膜を用いて浮遊ゲート発光トランジスタを作製し、デバイスの動作特性を観察、解析した。この場合、蒸着膜の場合と比較して発光を観察するために高い電圧(数十~100 V)を印加することが必要であった。発光場所は、チャネル部分(電子注入極とホール注入極の中間部分)で発光する場合が多かった。 当年度は、新たにゲート絶縁膜に対して有機半導体薄膜と金属酸化物半導体薄膜の位置関係を変えたデバイスを作製した。即ち、これまでは後者をゲート絶縁膜に直接接触させたデバイスを評価したが、当年度は金属酸化物半導体薄膜とゲート絶縁膜とで有機半導体膜を挟み込む形態のデバイスを作製して特性評価した。この結果、ホール移動度として100 cm2/Vsの高い移動度を観測した。これは、現況において有機トランジスタの最高レベルと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機半導体薄膜と金属酸化物半導体薄膜とからなる浮遊ゲート発光トランジスタという、これまでに例を見ないデバイスのプロトタイプを構築し、デバイス動作特性の解析を通して浮遊ゲート発光トランジスタの特徴を明らかにしつつある。この意味で、上記の研究実績は、研究の当初目標をかなりの程度達成したと言える。特に、有機半導体の形態(アモルファス膜か結晶膜か)の違いによってデバイスの発光場所やデバイス駆動電圧に違いが見られた点は、本デバイスの特徴を理解する上で重要である。 上記の研究実績概要で触れたように、金属酸化物半導体薄膜、ゲート絶縁膜および有機半導体膜の位置関係の違い(積層順序の違い)がキャリア移動度等のデバイス特性を大幅に左右することが明らかになった。このことは、無機半導体をベースとするトランジスタデバイスと有機トランジスタとの大きな違いの一つと考えられる。特に、100 cm2/Vsを超える移動度は、有機デバイスとして極めて大きい値であるので、再現性と共に原因を追究したい。 研究の開始当初、上記デバイス形態の違いによる優れた動作特性の発現を予期しなかった。今後、有機浮遊ゲート発光トランジスタの動作原理を解明することによって、本研究の特長に訴求したい。
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今後の研究の推進方策 |
当年度に実施した研究によって浮遊ゲート発光トランジスタデバイスが高い移動度をもつという特徴を示すことができた。同時に、有機半導体膜の形態(アモルファス膜か結晶膜か)の違いによってデバイスの発光場所やデバイス駆動電圧に違いが見られるのは何故か、という問題が新たに生じた。特に、金属酸化物半導体薄膜、ゲート絶縁膜および有機半導体膜の位置関係の違い(積層順序の違い)がデバイス特性を大きく支配するのは、どのような原因に由来するかという疑問を解決する必要が起こった。これらの課題解決によって、浮遊ゲート発光トランジスタのキャラクタリゼーションに直結させたい。 浮遊ゲート発光トランジスタを着想した動機の一つは、有機半導体中の低いキャリア密度に起因する、大電圧駆動を必要とする等の有機デバイスの難点を克服することにあった。このため、浮遊ゲートを構成する材料が必ずしも金属酸化物半導体である必要はない。この他にも、例えば、アルミニウムや銀等の金属材料を選ぶ余地がある。有機デバイスのもう一つの難点の中に、電子注入の困難さがある。これを解決するために、金属や無機半導体等、浮遊ゲートを構成する材料のフェルミレベル等の電子準位を有機半導体の電子準位とマッチングさせる必要がある。さらには、発光材料として優れた有機半導体材料を選定することが必須である。 上述のデバイス形態の最適化、電極、ゲート絶縁膜および有機半導体材料の選定等を効率的に行って研究を推進したい。
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