研究課題/領域番号 |
24655176
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
益田 秀樹 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 教授 (90190363)
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研究分担者 |
近藤 敏彰 (財)神奈川科学技術アカデミー, 重点研究室・光機能材料グループ, 研究員 (20513716)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 有機薄膜太陽電池 |
研究概要 |
薄膜系太陽電池は低コスト,大面積,軽量,フレキシブルなど様々な利点が期待できることから,新規な太陽電池として活発に研究されている.一般的に,薄膜系太陽電池の発電層の膜厚は,ナノメートル~サブマイクロメートルスケールと非常に薄く,光吸収の効率は低い.そこで,光を効率的に捕集する手法として,金属ナノ構造からなる光ナノアンテナの適用が提案されている.金属ナノ構造体に光を照射する際,入射光電場により自由電子が周期的に振動する局在表面プラズモン共鳴(LSPR)にもとづき効率的な光捕集を可能とし,変換効率の増大はかる試みである.効率的な光捕集の実現には,ナノ構造の形状および配置を制御することが重要となるが,形状が高度に制御された金属ナノ構造体を大面積に配置し,変換効率の検討を行った例は報告されていない. 形状および配置が高度に制御されたナノ構造体を大面積に形成可能な手法として,自己組織化プロセスにもとづく手法があげられる.Alを酸性電解液中で陽極酸化することにより形成される陽極酸化ポーラスアルミナは,規則ポーラス構造材料の代表的な素材であり,適切な条件で作製を行なうことにより細孔が長距離に渡って理想配列した構造が得られる.本年度は,形状制御された金属ナノドットアレーの有機薄膜太陽電池への適用,および光電変換特性の評価に関して検討を行った.その結果,陽極酸化ポーラスアルミナにもとづく金属ナノ構造体の形成手法を導入することで,形状および配列が制御されたAuナノドットアレーを有するp-n接合型およびバルクヘテロ型有機薄膜太陽電池の形成が可能であった.作製した太陽電池は局在表面プラズモン特性を示し,I-V曲線を測定することで光電変換の評価を行ったところ,光電変換効率が低い太陽電池に対してAuナノドットアレーを導入した場合に,変換効率が向上する傾向が観察された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,金属ナノ構造からなる光アンテナを応用した有機薄膜太陽電池の高効率化を目的としている.本年度は,陽極酸化ポーラスアルミナにもとづいた金属ナノドットアレーの形成と,有機薄膜太陽電池への適用を目標として検討を行った.その結果,陽極酸化ポーラスアルミナを蒸着マスクとし形状制御された金属ナノドットアレーを大面積に形成することが可能なこと,金属ナノドットアレーを有するp-n接合型およびバルクヘテロ型の有機薄膜太陽電池を形成可能なこと,および,光電変換効率の低い素子に金属ナノドットアレーを適用した場合に変換効率が向上する傾向があることを観察している.以上の事から,本年度の研究目標を概ね達成しており,研究は順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
薄膜系太陽電池の発電層は,主に可視光域に光吸収を示し,赤外光にはほとんど応答しない.太陽光の約40%を占める赤外光の利用が可能となれば,光電変換効率の高効率化が期待できる.次年度では,本年度にひきつづき,金属ナノ構造アレーを適用した有機薄膜太陽電池の作製手法について検討を加えるほか,近赤外光により光電変換可能な高効率太陽電池の形成を目的として,主に以下の事柄に関して検討を行う. 局在プラズモン共鳴の波長は,金属ナノ構造体の形状に依存する.金属ナノロッドは近赤外光と効率的に共鳴することから,長方形の開口を有する陽極酸化ポーラスアルミナを蒸着マスクとしてナノロッドアレーを形成し,有機薄膜太陽電池に適用することで,光電変換の高効率化を試みる.ポーラスアルミナの開口形状の変化による,Auナノロッドのアスペクト比の制御に関して検討を行う.ナノロッドアレーの光学特性は,分光光度計を用いて測定し,FDTD法により理論的な解析を実施する.得られた赤外光アンテナアレーを組み込んだ有機薄膜太陽電池を形成し,光電変換特性の評価を行う. 金属ナノ構造体の3次元配列からなる高効率光アンテナの構築と有機薄膜太陽電池への適用に関して検討を行う.近赤外光の効率的な捕集を目指し,ナノロッド型光アンテナを3次元的に規則配列させた高次光捕集システムの構築を試みる.このような構造は,矩形細孔を有するポーラスアルミナマスクを用い,角度を変化させながら順次金属蒸着を行なうことで得ることができる.本構造によれば,偏光によらず効率的に光捕集が可能となる.さらには,上下のナノロッドのアスペクト比を違えることで,より広波長帯域での光捕集が可能となり,有機薄膜太陽電池の高性能化につながるものと期待できる.このほか,異なる種類の金属を3次元的に複合させることによる応答波長域拡大に関しても検討を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画において,特性評価システムを設備として導入することを計画していたが,現有設備により定性的な評価が可能であることがわかり,新規設備の導入を保留した.これにより繰越金が発生した.H25年度には,研究の進捗によりより詳細な特性評価が必要となれば評価設備を新規購入する予定であるが,現有設備による特性評価で進められるようであれば,その分の研究費を試薬等の購入費にあて,より一層の研究推進を図る予定である.そのほか,金属ナノ構造の形成に必要とされるめっき浴用の試薬,および金属(金,銀等の貴金属を含む),光学素子,薬品,実験器具類を含めた消耗品費として,次年度,400千円を計上する.また,本研究課題で得られた成果は,国内外の学術講演会や論文誌に発表を行っていく予定であり,旅費等の費用として450千円を計上する.また,論文誌への投稿費用として,250千円を計上する.
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