研究課題/領域番号 |
24655183
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
前田 壮志 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90507956)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 機能性色素 / 自己組織化材料 / 高分子構造・物性 / 太陽電池 / 有機半導体 / スクアリリウム / バルクヘテロ接合型太陽電池 / 近赤外 |
研究概要 |
本課題では,高効率な有機薄膜太陽電池の実現に資する電子ドナー材料の開発を目指して,スクアリリウム色素の高い光吸収能と凝集性に着目し,ペンダント基としてスクアリリウム(SQ)色素を持つポリマーの合成および色素側鎖間のπスタッキングに基づく自己組織体の構築,さらに自己組織体形成に基づく光・電気化学特性やモルフォロジーへの効果を明らかにすることを目的としている.本年度,ペンダント基間のπスタッキングを促進する色素骨格として,直線状にπ共役系が拡張されたSQ色素及び分岐構造を持つスSQ色素を新たに合成した.直線型の色素はπ共役系の拡張により近赤外光領域に分子内電荷移動による強い吸収が認められたが,それらの吸収波長領域は一般的なSQ色素と同様に狭く,可視光領域の光捕集能が低い結果となった.一方,中央にカルバゾール骨格を有し,その4,4’位にシクロブテンジオン及び複素環が共役した構造となっている分岐型のSQ色素はSQ発色団に基づく強い吸収が650 nm付近に見られると同時に,可視光領域にも比較的強い吸収が認められ,高い光捕集能を有することが明らかとなった.それらの酸化電位は一般的なSQ色素に比べて0.2 V程度高く,深いHOMO準位を有することが示された.これらの結果より,ペンダント基として分岐型SQ色素を選択し,カルバゾールの窒素上にアルキル鎖を介してメタクリロイル基を導入したモノマーを設計し,合成に成功した.また,モノマーのメタクリロイル基をイソブチリル基としたモデル化合物を電子ドナー材料,フラーレン誘導体(PCBM)をアクセプター材料して有機薄膜太陽電池を作製・評価した.その結果,モデル化合物の吸収特性を反映して,750 nm付近から可視光領域にわたって分光感度を示し,分岐型SQ色素がドナー材料として機能することが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画ではペンダントとしてSQ色素を有するポリマーの合成と生成ポリマーの自己組織化挙動の観察が予定されていた.本年度,電子ドナー材料として適当な電子構造及び光吸収特性を持つSQ色素を新たに設計・合成した為,当初の計画より研究はやや遅れている.しかし,新規ペンダント用SQ色素の開発により有機薄膜太陽電池向けの電子ドナー材料として求められる物性は当初の予想を上回っており,研究の新規性や質は高まったと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度中に合成した分岐型SQ色素を有するモノマーの重合を行い,所望のポリマーを合成するとともに,得られたポリマーの有機溶媒中および薄膜中の自己組織化挙動を吸収スペクトルや原子間力顕微鏡で観察する.さらに,それらをバルクヘテロ接合型太陽電池へ応用する計画である.具体的には以下の3項目を行う計画である. 1)色素をペンダント基に持つモノマーの重合: 得られたモノマーの重合は,原子移動ラジカル重合(ATRP)で行う計画である.コモノマーとしてメタクリル酸メチルやカルバゾールをペンダント基として持つメタクリル系モノマーを選択し,コポリマーの組成比が自己組織化や物性に及ぼす影響を明らかにする. 2)自己組織化挙動の評価: HOPG(グラファイト)基板に希薄溶液をキャストして原子間力顕微鏡(AFM)で表面観察を行い,自己組織体形成を確認する.また,生成ポリマーの自己組織化挙動は,溶液中と固体薄膜状態の吸収スペクトル等でも評価する.自己組織化が確認できれば,固体薄膜の広角X線回折測定や溶液の溶液動的光散乱(DLS)測定を行い,自己組織化に適した条件を探索する.また,自己組織体を用いて有機電界トランジスタを作製し,その電荷移動度を評価する. 3)有機薄膜太陽電池の作成・評価: 生成ポリマーとアクセプター分子(PCBM)からなる光活性層からなる有機薄膜太陽電池素子を作製し,疑似太陽光照射下における光電変換特性を評価する.ドナーの自己組織化とドナー・アクセプターの相分離構造はAFMを用いて直接観察する.キャスト溶媒やキャスト後のアニーリングは,バルクヘテロ構造形成に重要な役割を持つと予想されるので,それら条件の最適化を図る.以上のデバイス評価で得られた結果を分子設計にフィーバックし,より高性能なドナー材料の開発に向けた設計指針を得る計画である.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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