3d遷移金属(ScからCrまで)のmononitrideはNaCl型のCubic構造をとるが、MnNは通常tetragonal構造をとる。cubic相MnNの存在も報告されているが、単相合成の報告はなく、また、その格子定数は他の金属窒化物に比べ異常に長い。本研究では、PLD法を用いて基板上にエピタキシャルMnNの合成を行い、生成する結晶相について検討した。MnN薄膜はRFラジカルソースからの窒素ラジカル照射下で金属Mnをアブレーションし蒸着した。基板には主にMgO (001)を用い、基板温度を変化させた。合成した薄膜について、多軸X線回折、透過型電子顕微鏡(TEM)、X線吸収微細構造(XAFS)、ラザフォード後方散乱(RBS)、XPS等によりキャラクタリゼーションを行った。基板温度室温では結晶化しなかったが、150~350℃の温度では(001)配向したtetragonal構造のtheta-MnNが生成した。450℃程度ではeta-Mn3N2が(001)配向し、さらに高い温度では、エピタキシャル成長したCubic相MnNのピーク強度が強くなり、基板温度が690℃のときeta-Mn3N2のピークがみられなくなった。この試料においてX線回折で観測されたCubic相MnN薄膜の格子定数は、a=4.445(3)Aとなり、報告のあるa=4.47Aの相と同様、結合距離が異常に長い。しかし、基板温度690℃で合成したMnN薄膜についてTEM測定を行った結果、電子線回折より、この試料には2つの相が共存することが分かった。XAFS測定結果においても結合距離はX線回折測定から計算した値より小さく、MgO基板のピークに隠れたa=4.2Aの相が主として生成していることが示された。以上、MgO単結晶基板上でMn窒化物の合成条件と生成する相の変化が系統的に明らかとなった。
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