研究課題/領域番号 |
24655195
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
柳澤 和道 高知大学, 教育研究部総合科学系, 教授 (90145110)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 固相反応 / 水蒸気 / 酸素同位体 / チタン酸バリウム / チタン酸ジルコニウム |
研究概要 |
固相反応場に水蒸気を導入すると,固相反応が促進される現象の究明と応用を目的に研究を実施している。水の存在により反応が促進されていることを実証する一つの手段として,酸素同位体を含む水を反応系に導入し,試料内に酸素同位体が取り込まれたどうか確認することとした。炭酸バリウムと酸化チタンとの固相反応では,(1)炭酸バリウムの熱分解,(2)水酸化バリウムの生成による物質移動,(3)酸化チタン粒子表面上での反応,(4)空孔が生成することによるチタン酸バリウム格子内でのイオンの体積拡散,以上の四つの反応を促進しているものと推察し,反応の初期,中期,末期段階で酸素同位体を含む水を反応系に導入し,試料中の酸素同位体量を測定した。その結果から,酸素同位体は明らかに試料中に取り込まれ,その取り込まれた量は反応温度と酸素同位体を含む水を導入する時間に強く依存することが分かった。すなわち反応温度が高温であるほど,酸素同位体を含む水を導入する時間が長いほど,試料中に酸素同位体が多量に含まれることはわかったが,どの段階で水蒸気が反応を促進しているのかの識別は困難であった。 そこで,水蒸気の固相反応促進効果を理解するために,新たに炭酸バリウムと酸化ジルコニウムとの固相反応を実施した。その結果,水蒸気によるジルコン酸バリウムの生成促進作用が観察され,その効果は,チタン酸バリウムの場合と比較し低温で顕著であることがわかった。この系では,炭酸バリウムの分解に起因する上記のチタン酸バリウムの生成素反応(1)と(2)は同じであり,酸化チタンと酸化ジルコニウムとの違いは(3)と(4)とに現れるはずである。水蒸気を導入した固相反応によるジルコン酸バリウムの生成が,チタン酸バリウムの生成よりも高温では進行しにくかったことから,水蒸気は特に素反応(1),(2),(3)を促進しているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度は酸素同位体を含む水蒸気を炭酸バリウムと酸化チタンの反応系に導入し,試料中に含まれる酸素同位体の量を測定し,水蒸気が反応のどの段階で促進作用をもたらしたのかを調べようとしたが,高い反応温度で長時間の反応を実施することにより多量の取り込みが起こり,水蒸気が促進する反応を特定できなかった。しかし,反応系を炭酸バリウムと酸化ジルコニウムに変えて結果を比較することにより,水蒸気は特に炭酸バリウムの熱分解とバリウムの物質移動及び表面反応を促進する効果があることがわかった。このように,水蒸気の反応促進効果の理解を深めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き,水蒸気が固相反応を促進する機構を理解し,水蒸気による固相反応の促進が普遍的なものであることを実証するために研究を行なう。反応の系を,チタニア,ジルコニアだけでなく,シリカなどの他の酸素多面体骨格を有する酸化物との反応に拡張し,水蒸気の固相反応促進効果を調べる。特にシリカ系においては,反応の途中段階での試料をNMRで測定し,Si-O-Si結合の様子を調べてみることにより,反応のどの段階で水蒸気が作用するのか把握したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
主な研究経費の使途としては,試薬,炉心管などの消耗品費,成果発表用旅費,測定依頼費を考えている。備品の購入は計画していない。
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