本研究では,固相反応場に水蒸気を導入することにより固相反応が促進される現象に関して研究を行い,炭酸バリウムと酸化タングステンとの反応によるタングステン酸バリウムや炭酸カルシウムと非晶質シリカとの反応によりケイ酸カルシウムを合成した。いずれの場合も,1気圧の水蒸気を反応場に導入することにより,反応時間を2時間に固定した場合,目的とする物質が単相で得られる反応温度を50℃から150℃も低下させることができた。水蒸気が炭酸塩の分解を促進して低温で金属酸化物が生成すること,水蒸気が金属酸化物と反応して蒸気圧の高い水酸化物を生成し気相を経由して金属イオンがシリカなどの酸化物粒子の表面に供給されること,水が反応生成物内に取り込まれて金属イオンの固体内拡散を促進することが実験的に確認できた。 目的物質の合成温度をさらに低下させるために,炭酸カルシウムと非晶質シリカとの反応系にフラックス成分として塩化ナトリウムの添加を試みた。空気中での加熱では,ケイ酸カルシウム(wollastonite)は850℃で不純物を含むものの主成分として生成した。水蒸気を導入すると,生成温度は800℃まで低下した。一方,50wt%の塩化ナトリウムを添加すると空気中でも生成温度は700℃に,さらに水蒸気を導入すると生成温度は575℃まで低下させることができた。 この水蒸気導入加熱法は,アスベスト含有廃棄物の無害化において,処理温度を大幅に低下させる効果があった。これは,水蒸気の導入によりアスベスト熱分解物とセメント成分との固相反応が促進され,アスベスト繊維の非繊維化が達成できたためと考えられる。
|