研究の第1段階として、均一系触媒として高い立体選択性を発現するキラル配位子の分子設計と合成を行った。具体的には、天然アミノ酸である(S)-プロリンから誘導される(S)-2-(アニリノメチル)ピロリジンに焦点を当て、この骨格に改良を加えることで、アルデヒドへのジアルキル亜鉛の不斉付加反応が高収率かつ高立体選択的に進行する低分子触媒の開発を行った。(S)-2-(アニリノメチル)ピロリジンのピロリジン環上の置換基について種々検討した結果、ベンジル基を有するものを用いると、不斉付加反応が94%の収率、92% eeの選択性で進行することを見出した。 研究の第2段階として、キラル配位子を導入した高分子ゲルの分子設計と合成を行った。具体的には、キラル配位子を結合させたスチレン誘導体、アクリル酸エステル、およびメタクリル酸エステルをラジカル重合によって反応させた架橋型高分子の合成を行った。 研究の第3段階として、反応溶媒であるトルエンに対するゲル化試験を行い、高分子ゲルを形成するための分子骨格に関する条件を模索した。キラル配位子と高分子鎖とを結ぶ側鎖の炭素数やラジカル重合におけるモノマー比と架橋度について種々検討した結果、モノマー含有率5mol%、架橋度2%のとき、トルエン中で膨潤する高分子ゲルが得られることが分かった。 研究の第4段階として、得られた高分子ゲルを触媒に用いてベンズアルデヒドへのジエチル亜鉛の不斉付加反応を行った。 反応時間や反応温度、触媒となる高分子ゲルの添加量、ジエチル亜鉛の当量などを詳細に検討した結果、立体選択性が94% eeまで向上することが分かった。さらにこの高分子ゲルは繰り返し使用しても品質が劣化しないことが分かった。
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