研究課題/領域番号 |
24655209
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
芦内 誠 高知大学, 教育研究部総合科学系, 教授 (20271091)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 環境材料 / 環境技術 / 環境機能 / バイオポリアミド / 化学改質 |
研究概要 |
当初計画に従い、ドーパミルPGAの効率合成法について検討した。具体的には、固体(PGAイオンコンプレックス)―液体(ドーパミン含有アルコール)界面縮合法[特願2011-064054]から液―液縮合法への転換と反応効率化を目指し、まず、PGAイオンコンプレックス(PGAIC)の溶解条件について調査した。結果、有機溶媒の中でもエタノールをはじめとする低級アルコールにのみ高い溶解性を示すことを発見した。 約4%のPGAICを含有するアルコール溶液を約1%のドーパミン塩酸塩を含有するアルコール溶液中に射出する方式でドーパミルPGAの合成を試みたところ、予想をはるかに上回る効率でドーパミルPGAを合成するのに成功した。事実上、使用した正味のPGAの99%以上がドーパミルPGAに変換され、しかも90%を超える収率で回収するのに成功した。 さらに、固体NMR、液体NMR、二次元NMR、FTIR等の各種機器分析の結果、PGAのカルボキシル基ほぼ全てがドーパミンにより修飾されていることまで判明した。 本反応は、常温で進行し(すなわち、脱水縮合/修飾のための加熱エネルギーを必要としない)、しかも環境負荷が大きく危険度の高い化学薬剤(例えば、ナイロン合成に必要な塩化チオニル等のハロゲン化剤)を一切必要とせず、さらには高価な化学触媒(アミド縮合剤等)にも依存しないため、環境調和型の機能性ポリマー合成技術にまで昇華できるものと示唆されていたが、今回、その合成効率においても従来法を大幅に上回る可能性が出てきた。画期的な材料合成技術の創出に繋がる基盤的知見が得られたとの結論に達した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、使用したPGA分子の80%以上がドーパミルPGAに変換されることが数値上の目標としたが、実績概要で示した通り、明らかにこの目標を上回ることができた(99%以上)。スケールアップに伴うデットボリュームの増加を勘案しても、十分に実用化に堪える数値であるとの予想を立てている。当初計画から現在までの達成度でいえば、「おおむね順調に進展している」の評価に十分値するものといえる。 一方、なぜこのような極めて効率的な修飾反応が進行するのかについて(あたかも反応平衡を無視するかのような挙動について)、その詳細なメカニズムの解明を目指した挑戦は次年度の新たな計画として持ち越すことになった。この点から、「当初の計画以上に進展している」の評価にまでは至らないと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、ドーパミルPGAの金属応答性に着目し、レアメタル(ニッケルやコバルト等)及びストロンチウム等の拡散有害物質(実際は非放射性同位体等を使用する予定)を効率的に捕捉、回収、封じ込めるまで可能かどうか検証する。ただし、本計画当初からの改良点としてはドーパミルPGAゲルで表層コートした活性炭を用いることにした点である。これにより、ppmレベルの人工汚染水や汚染土壌の除染時に出される廃液等からの汚染物質の捕捉、あるいは二価金属イオン(レアメタル類)回収効率の著しい向上と操作工程の簡便化が望める。 さらに、当初計画にはなかった項目としてはドーパミルPGAの合成メカニズムに係る調査を追加する。具体的には、十数種のドーパミンの構造類縁体を本合成反応を供試し、PGAの修飾・改質が進むかどうか調査する。改質反応が進むものと進まないものを比較し、構造上の相違から本反応に必須の官能基等を同定する。さらに、修飾効率や精密構造解析、また熱特性をはじめとする物性解析も行い、ドーパミルPGA合成との類似点・相違点を浮き彫りにする。以上によって得られる成果は機能性ポリマーの合成に係る新たな反応原理・技術基盤を提示することに繋がりうるものになると期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験開始当初は、PGAイオンコンプレックスの溶解性試験のほか、数十通りの物理的・化学的処理による反応効率の向上を計画していたが、そのなかでエタノール溶解液の作製や射出法の導入などにより良好な結果が得られたため、当初の収支計画よりも大幅に消耗品費などの経費が節約ができた。 一方、比較的容易な反応条件設定でありながら、極めて効率的に目的のドーパミルPGAが合成できることについて、その分子メカニズム、特にPGAICの状態でエタノールに溶解させた時に、PGAそのものはどのような構造変化(PGAは本来エタノールをはじめとする低級アルコールには絶対に溶解しない)や反応促進に係る修飾を受けているのか等、今後の大量生産・実用化を考える上でも、極めて重要、かつ解決すべき新たな課題が生まれた。 そこで、節約できた研究費については、次年度計画の中で新たに加えた課題「ドーパミルPGA合成メカニズムの解明」に係る研究資金(主に消耗品費)として活用させていただくことにした。
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