研究概要 |
電界紡糸法で得られる繊維の内部構造は繊維径に応じて大きく異なり、直径約200nm以下では、ほぼ伸びきり鎖結晶から成ることを報告した(Polymer 2010,51,2383)。さらに直径200nm以下の繊維を選択的に得る方法として、電界延伸法を考案し、数十ナノメートル径の伸びきり鎖結晶ナノファイバーの作製に成功した(Macromol Mater Eng 2010, 295, 1082)。本研究の目的は、伸びきり鎖結晶ナノファイバーを安定して得るための紡糸・延伸機構の構築であり、最終的には、様々な機能性高分子への応用である。 コレクタに平行電極板を用いると電界が分割される。この分割電界は、溶媒で濡れた状態の繊維に作用させることで繊維の延伸作用として働く。従って、溶媒の蒸発制御が鍵となる。溶媒蒸発制御を容易にするため、高温溶液からの紡糸を検討し、シリンジからコレクタ間の距離と温度の制御を目指した。 初年度は装置の開発に費やした。シリンジ部を電気的に加熱し、コレクタまでの雰囲気を赤外線ヒーターで加熱するデザインを考案した。株式会社井元製作所の協力の下、シリンジ部、シリンジ-コレクタ間の双方で、誤差温度が±1度程度となる装置を開発した。 本年度は、主にポリエチレン(PE)を試料とし研究を行った。直径200nm以下の繊維を安定して紡糸することに成功し、その構造は伸びきり鎖単結晶様であることを電子線回折により確認した。高温からの紡糸でこの様に細い繊維の安定した紡糸は知る限り初めてである。また、シリンジ-コレクタ間の温度制御が分割電界の延伸作用に大きく影響をすることが、同じく電子線回折を用いた解析より示された。PEに加え、シルクフィブロインおよびポリビニルアルコールのナノファイバーの作製についても並行して行い、湿度変化による構造変化とそれに基づく応力発現機構について調べている。
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