研究課題/領域番号 |
24656003
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大野 裕三 筑波大学, 数理物質系, 教授 (00282012)
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研究分担者 |
山ノ内 路彦 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (40590899)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | スピン永久旋回状態 / スピン・軌道相互作用 / GaAs/AlGaAsヘテロ構造 / 顕微カー回転測定 / 動的核スピン分極 |
研究概要 |
細線加工したGaAs量子構造における電子・核スピンダイナミクスの制御に関して,本年度の成果は以下の通りである. (1)スピン軌道相互作用 スピン軌道相互作用(SOI)は電場中を電子が高速で移動することで,相対論的効果によりスピンに有効磁場が働くというものである.この有効磁場はDP緩和など電子スピン緩和の主な原因になる一方,外部磁場なしで電子スピンを操作できるとして期待されている.さらにRashbaとDresselhausの2つのスピン軌道相互作用の強さが等しいPersistent Spin Helix(PSH)状態ではスピンが永久に伝搬するとして注目されている.今年度は,[110]方向細線における電子スピン緩和時間を[1(_)10]の40倍以上長く(1.2 ns)なることを実証した.本年度はさらにスピン緩和の抑制された[110]細線の細線幅依存性を測定し,モンテカルロシミュレーションと比較することから,SOIパラメータを決定した. (2)効率的な動的核スピン分極と核磁気共鳴法による核スピンの制御 核と電子スピンとの超微細相互作用による動的核スピン分極(DNP)を効率的に起こすには①時間平均電子スピンを大きくする,すなわち電子スピン緩和時間を長くする,②核位置における電子の局在効果を大きくする,といった方法が考えられる. 上述したとおり,[110]方向に細線加工した(001)面GaAs量子井戸を用いることで長いスピン緩和時間(1.2 ns)が得られている.そこで細線中の動的核スピン分極(DNP)と核磁気共鳴を観測した.励起スピンの向きにより動的核スピン分極による核磁場の方向が変化することを確認し,スプリットコイルによって高周波磁場を掃引することでNMRスペクトルを観測することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Rashba効果を強めた変調ドープGaAs/AlGaAs単一量子井戸構造において,細線構造における大きなスピン緩和時間の異方性を確認し,シミュレーション計算結果と比較して実験的に得られたRashba,Dresselhaus係数の妥当性を確認した.この結果,よりスピン永久旋回状態に近い2次元電子系を有する変調ドープGaAs/AlGaAs量子井戸構造の設計指針が得られた.また,空間分解顕微時間分解カー回転測定系の立ち上げも順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,数値計算によるGaAs/AlGaAs量子井戸構造のバンド構造の設計と,分子線エピタキシによるGaAs/AlGaAs量子井戸構造の成膜,および量子細線構造におけるスピン緩和の異方性を調べ,スピン永久旋回状態を実現するGaAs/AlGaAs量子井戸構造と高移動度2次元電子ガスを実現する.スピン永久旋回状態は,Dresselhaus項とRashba項がちょうど等しくなったときに現れる状態である.GaAs/AlGaAs系量子井戸の場合,一般にDresselhausの方が支配的となるが,ドーピング方法やキャリア密度を調整することにより,スピン永久旋回状態に近いスピン・軌道相互作用を実現できる.これを確認するために,ゲート電極付きGaAs/AlGaAs単一量子井戸構造を作製し,スピン軌道相互作用をチューニングしスピン永久旋回状態におけるスピン伝導の極限を目指す.また,スピン緩和時間の温度依存性を調べスピン永久旋回状態のデバイス応用への可能性を検証する. スピン緩和時間の測定には東北大の既存の時間分解カー回転測定システムおよび筑波大で新たに構築する強磁場を印加可能な時間分解顕微カー回転測定システムを活用してその異方性を明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度3月末に購入した消耗品の支払いが4月になったため残額が発生している。 本年度は,目標とするスピン永久旋回状態を用いたスピン回路ネットワークの試作に進む。試料作製のための半導体基板,電極のための金属材料,薬品,電子部品のほか,低温・強磁場測定に必要な液体窒素・液体ヘリウムなどの冷媒などの消耗品を購入する. さらに,空間分解顕微時間分解カー回転測定系構築に必要な計測機器,真空部品,光学部品を購入し研究遂行をはかる.
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