研究課題
今年度は,スポット径が歳差運動長より十分小さい走査型TRKR測定系を構築し,スピンの時空間発展を観測した.対物レンズを使用することにより,プローブ光のスポット径を1.5μm程度まで絞り,さらにプローブ光の光学系を2軸のピエゾスキャナ上に構築することで試料面内の走査を可能にした.また,ポンプ光は試料に対して45度の角度で入射しており,スポット径は6μm程度である.変調ドープGaAs/AlGaAs単一量子井戸における2次元電子のスピン空間分布の時間変化を測定した結果,時間とともに電子スピンは拡散するが,運動方向に依存してスピンの状態が変化しており,励起後十分に拡散した場合のスピン空間分布の測定結果から,励起された電子スピンは[1-10]方向に運動するときには空間的に歳差運動するが,[110]方向には励起スピン状態を保っていることから,[110]方向に運動する電子スピンが受ける有効磁場はRashbaとDresselhausの2つのスピン軌道相互作用(SOI)がキャンセルされるためほぼゼロになっていることが示された.また, ゲート電極を設けたGaAs/AlGaAs 量子井戸を用い,2次元電子スピンの時空間ダイナミクスを測定することで,ゲート電圧によるスピン空間分布の制御を直接観測した.異なるゲート電圧において空間的なスピンのアップダウンのストライプパターンが観測されており,そのパターンはゲート電圧Vgの大きさによって変化した.特にスピンのアップダウンの周期はSOIの大きさによって決まるが,Vgによってその周期が変化しており,SOIの制御とスピン空間分布の制御を直接的に観測することができた.また,磁場印加時のスピン空間分布の時間変化から,PSH状態を得ると同時に,SOIパラメータのゲート電圧依存性を得ることに成功した.
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巻: Vol. 53 ページ: 04EM04(3 pages)
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