研究課題
シリコンに微少量のボロンや燐をドープすることでn型かp型かを制御できる。これは、マクロな性質が微少量ドーパントに支配されることを意味しており、ドーパント周囲の環境を直接解明できれば、機能性材料の機構解明、高度化が可能と予想できる。しかし、局所構造の観測は通常の回折実験ではほぼ不可能であり、とくにボロンのような軽元素観測にはX線は感度が弱いことから、ドーパント周りの局所構造解明は、その重要性にもかかわらずいまだ不十分である。我々は、ドーパント周囲の3D原子局所構造の観測のため、従来の実験技術の延長上にはない実験手法「原子分解能中性子ホログラフィー」に注目している。原子分解能中性子ホログラフィーは、中性子実験としては唯一の核種選択的な局所構造解析技術であり、かつスピンや水素やボロンなどの軽元素ドーパント研究にとって決定的な役割を果たる。しかし従来は強度不足から単波長中性子でしか測定できず、再生像の鮮明度が不十分であり、ドーパント周りの局所構造研究には精度が不十分であった。本研究ではこの点を克服するため、大強度陽子加速器施設(J-PARC)を利用して多波長での中性子ホログラフィーを世界で初めて実現することをめざす。成功すれば水素原子像再生の飛躍的高度化が可能になる。さらに0.01Aで原子位置を決定する解析コードの開発、白色偏極中性子を用いた高精度磁気イメージングにも取り組む。X線では例えば0.8-1.0A 範囲で10 本程のホログラムを測定するが、本計画ではさらに広い波長範囲(0.6-10A)ではるかに多数(100本程度の波長で中性子ホログラムの測定をめざすので、再生像精度がX線、電子線を上回る可能性もある。また偏極中性子ホログラフィーにも挑戦する。
3: やや遅れている
H25 年度には、J-PARC/MLF のBL10においてガンマ線を測定するインバース法で本格的研究実験を開始する計画であり、試料環境、測定装置はH24 年に作成した装置を用いる予定であった。しかし、H25年5月のJ-PARCでの事故により、J-PARC/MLFが予定外のシャットダウンとなり、予定していた中性子本実験を実施することができなかった。このため期待していたデータが得られず、この意味で計画は遅れている。一方で、H24年度に得たEuドープCaF2の局所構造データの解析を進めることに集中した結果、Euドーパント回りの局所構造の可視化に成功した。さらに、多波長を用いることでの高精度化が実現できることが実証できた。世界初の実証であり、H25年度には実験は進展しなかったものの、本計画の狙いが正しかったことを示す重大な結果である。
H26年度は最終年度であり、H25年度に実施できなかった実験を成功させる。大山と林が行う。実験はH26年度後半に予定している。このため、遮蔽体などの作製を行う。一方、H25年度に得られたCaF2の結果の論文投稿を早急に行う。ホログラフィー実験と解析と平行し、将来の偏極ホログラフィーにつながる技術として、偏極デバイス開発を大山、奥で進める。 H26年度に予定されている国際海外J-PARC Symposium(つくば)、PNCMI(シドニー)などで成果発表を行う。PNCMIは招待講演である。
J-PARCでのハドロン事故(2013年5月)のため、H26年度はJ-PARC/MLFが予定外の停止があり、また日本原子力研究開発機構の研究炉JRR3も停止中であったため、本計画での中性子実験がまったくできなかった。そのため、予定していた実験をH26年度に実施することにし、予算をH26年度にまわすことにした。実験旅費および、実験機器の購入をおこなう。また、本計画に直接関連する国際会議(PNCMI2014 シドニー)に大山が招待講演を行うことになったので、その旅費に使用する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 1件)
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