研究概要 |
本研究は、希薄磁性半導体(DMS)のうち半導体に2種の遷移元素を添加した4元系DMSの磁性と遷移元素間の相互作用を解明し、新たな機能発現と応用の可能性を拓くことを目的として研究を行っている。具体的には、II-VI族半導体に3d遷移元素Mn, Cr, Feの中から2種類を選んで添加した4元混晶を作製し、磁化・磁気光学測定により異種の遷移元素間にどのような相互作用がはたらくか、またそれが母体半導体のバンドギャップ中の3d電子準位の位置と電子数にどのように依存するかを調べ、相互作用の起源となるメカニズムを解明することを目指している。 平成24年度には、まずII-VI族半導体CdTeにMn, Crを同時に添加した4元系DMSの研究を行い、Mn組成が一定でCr組成を増加させた一連の薄膜試料をMBEにより作製し、その磁化特性を調べた。その結果、磁化の温度依存性のキュリーワイス則へのフィッティングから得られる常磁性キュリー温度は、Crを添加しない(Cd,Mn)Teで負の値であったのが、Cr添加により正に転じCr組成に伴い上昇することが見出された。これは(Cd,Mn)Teにおける反強磁性的なMn間の相互作用が少量のCrの添加により強磁性に転じることを示している。さらにX線磁気円二色性(XMCD)の測定より、MnとCr間の強磁性的結合が確認された。 次いでZnTeにCr, Feを添加した4元系DMSの研究の前段階として、3元系DMSの(Zn,Fe)TeのMBE成長と磁性の研究に着手した。その結果、成長した薄膜の構造および磁化特性は、MBEの成長時のZnとTeの分子線供給量(フラックス)比により異なり、Te分子線過剰下で成長した薄膜では正方晶FeTeの析出が生じ磁性は常磁性であるのに対し、Zn分子線過剰下で成長した薄膜では明らかな析出物は生じず磁性は強磁性を示すことが明らかとなった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は3元系DMSである(Zn,Fe)Teにおける実験結果を基に、さらにCrを添加した4元系DMSの(Zn,Cr,Fe)Teの研究に着手する予定である。MBEによりCr, Fe組成を系統的に変化させた一連の薄膜試料を作製し、それらに対する磁化測定を行うことにより、この系の磁性とCr, Feのスピン間の相互作用を解明することを目指す。
|