研究課題
本研究の目的は、有機材料の高品質結晶作製法の開発を目指し、フェムト秒レーザーによる結晶化制御法を進化・発展させることにある。本年度は、有機材料を対象として、(1)核発生と(2)結晶成長の2つの結晶化プロセスにおけるフェムト秒レーザーによる新規制御手法の開発を行った。核発生においては、ゲル―溶液界面を利用した新規レーザー照射法を開発した。フェムト秒レーザーの集光点では、キャビテーションバブルが発生し、膨張収縮を繰り返しながら崩壊する。この時、溶液と接する固体や気体の界面がある場合、その膨張収縮挙動は非対称になることが知られている。そこで本研究では、アガロースを用いて溶液―ゲル界面を作製し、その中でキャビテーションバブルが有機材料の核発生がどのように影響を与えるかを調べた。有機材料としてパラセタモールを用いて調べた結果、ゲル―溶液界面近傍で爆発的な結晶化が誘起されることを発見した。これはゲル―溶液界面へのレーザー照射が従来までの溶液中照射に比べて、より低過飽和条件で核発生を実現可能であることを示唆しており、結晶高品質化に向けた基礎的知見となると考えられる。また本年度はフェムト秒レーザーアブレーションによる種結晶作製法も開発した。一般に、フェムト秒レーザーを用いると、熱に弱い材料でも大きな損傷を与えず加工が可能であることが知られている。そこで、有機結晶の中でも特に加工が難しいタンパク質結晶をサンプルとして選択し、フェムト秒レーザーアブレーションによる種結晶作製法の有効性を調べた。その結果、レーザーで作製した種結晶が、元の結晶と同程度の品質の単結晶へと成長することがわかった。本手法は、有機非線形光学結晶である尿素結晶に対しても有効であり、フェムト秒レーザーが有機材料の高品質な種結晶作製法として有望であることが示された。
2: おおむね順調に進展している
既に本研究では、フェムト秒レーザーによる(1)核発生と(2)結晶成長の2つの結晶化プロセスにおける制御法の開発に成功し、その成果は既に国際誌Crystal Growth & Designに原著論文として発表している。(1)に関しては、キャビテーションバブルの挙動制御が固液界面により行えることを示し、従来よりも高い核発生効果をもたらすことを発見した。当初は、溶媒を変えることでキャビテーションバブルの制御を行う予定であったが、この場合は溶媒ごとに結晶化条件の最適化を行う必要がある。一方、界面は容器やレーザー照射位置により簡便に実現できるので、今後様々な材料に応用する場合、より有効な手法になりうると考えられる。また(2)はフェムト秒レーザーが結晶成長制御に有効であることを示した初の成果であり、当初の想定を上回るものである。既に尿素からタンパク質まで広く応用可能であることを示しており、今後様々な有機材料の高品質化に貢献できると思われる。
今後も有機材料を対象としたフェムト秒レーザー結晶化法の更なる進化・発展を目指し、特に核発生の結晶化プロセスにおける新規制御手法の開発を行う予定である。その一つとして、現在ゲル―溶液界面でのフェムト秒レーザー核発生法がある。フェムト秒レーザーによる結晶核発生手法では、キャビテーションバブルの高速膨張・収縮プロセスが核発生メカニズムに関っていることが示唆されている。近赤外波長のフェムト秒レーザーを、レーザー波長に対して吸収の無い透明溶液中に集光照射すると、集光点において、同時に複数の光子が物質に吸収される多光子吸収という非線形現象が起きる。この非線形な光吸収に伴い、集光点近傍で熱や熱弾性応力が発生することで溶液が瞬間的に突沸し、キャビテーションバブルが発生する。発生したキャビテーションバブルは膨張収縮を繰り返しながら崩壊する。この時、溶液と接する固体や気体の界面がある場合、その膨張収縮挙動は大きく影響を受けることが知られており、核発生に対してどうような影響として現れるかは非常に興味深い。これまでにアガロースを用いて溶液―ゲル界面を作製し、その界面にレーザー照射することで有機分子の核発生がどのように影響をうけるのかを調べ、顕著な核発生促進効果があることを見出している。今後は高速カメラなどを用いて、キャビテーションバブルの挙動と核発生についての定量相関を調べていきたいと考えている。さらに本研究で開発した技術を用いて、様々な有機電気・光学材料の結晶化を行い、従来法では到達できない飛躍的な結晶高品質化を目指したいと考えている。
昨年度は共焦点顕微鏡にて結晶成長を評価するために、スキャナーユニットを購入した。本装置の価格は昨年度予算(210万円)の90%以上にのぼるが、本装置を用いることでレーザーにより作製された有機材料の結晶評価を行う上が可能になり、本研究遂行に必要不可欠である。本年度は、昨年度に本装置に予算を割いたことを踏まえ、高品質な結晶作製における重要な装置である温度コントールユニットを備品として50万円計上した。また消耗品や旅費でそれぞれ50万と10万円を計上し、これは本研究を遂行する上で妥当な額であると考えられる。平成25年度残り総額:110万円備品費:50万円(顕微鏡用温度コントールユニット)消耗品費:50万円(有機試薬30万円、光学部品20万円)旅費:10万円(学会発表)
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Crystal Growth & Design
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